「・・・ねっみー・・・。」
「んだよ、朝っぱらからやる気ねぇ声だすなよ。」
「って言われてもさー、昨日の夜の騒動のせいであんま寝付けなかったんだよー。」
眠たいのかしきりに目をこする平助に、内心俺も同じだよ、と言ってやる。
昨晩は新八の脱ぎ捨てた羽織の血の匂いで起こされて、風呂場に怒鳴りつけに行ったらすごい光景を目にしちまった。
いやー、まさかあの斎藤がねぇ、
事の成り行きを本人から聞いて。斎藤の要点を上手くまとめたそれは俺らを納得させるだけのものだったが、どうにも腑に落ちない。
「なぁ、斎藤。」
朝稽古でぐだぐだ眠いを繰り返す平助の背中を軽く蹴りつけながら黙々と鍛錬に励む斎藤にこそりと声をかける。
「なんだ。」
「お前さ、昨日の夜は随分と冷静だったんだな。」
「どういう意味だ。」
ふと手を休めて、こちらを見やる斎藤に普段と特に変わった様子はない。
コイツなら昨日の騒動を引きずるようなことはないだろうと思いながらも、なんとなく聞いてしまう。
「あの土方さんでさえ、お前らの様子見て驚いてぽかんと間抜けな面晒してたんだぜ。
裸であーんなに密着してよ、お前が冷静すぎてつまんねぇんだよ、正直な話。」
「何故焦る必要があったという。説明したとおり、彼女が深夜に風呂に入った理由も俺や新八があの場に出くわした事もある意味で必然性がある。
各々やましい気持ちがあったわけではない。とくに冷静さを欠く必要はない。」
「うわー・・つまんねぇ答えだ。」
「だが・・そうだな・・、」
ポツリとほとんど抜け落ちてしまったという感じで斎藤は呟いた。
「新八が来なければ、俺はもう少し動揺するなりしていたかもしれん。」
「斎藤、お前・・」
俺が名を呼ぶとハッとしたように顔を上げ、今のは独り言だ。忘れてくれ。と口早に告げてさっさと稽古に戻っていく。
「はー…、こりゃ、今後荒れるかもしれねぇなぁ…」
「なにブツブツ言ってんだよ左之さん。」
「…お前は、ある意味関係ねぇかもな。」
「は!?なにそれ。」
「いや、お前と千鶴は・・、まぁありえねぇだろうってことだよ。」
「俺と千鶴?なにが?」
こいつに話を振っても意味がねぇな。
俺は逃げるように足早にここから離れた斎藤の背を見やって口元を持ち上げた。
「斎藤。」
「・・左之か。」
夜の巡察の準備のため、羽織を着込む斎藤を見つけて声をかける。
相変わらずこいつの態度に変わりはねぇ、か。
新八のやつなんか、千鶴を見るたびに慌てたように顔を背けるくせに、なんだってこいつはこうも反応が薄いんだ。どっちかっつーと、あのときの様子からしてこいつのほうが動揺しておかしくない距離に居たって言うのに。
あれか、後ろに居たからある意味なんも見ちゃいねーってことか。
いや、でも、俺から見てもかなりの密着度だったしな。見てなくても肌合わせりゃ、それなりに意識したりはすんじゃねぇか?
「人に声をかけておいて考え事か?用がないなら俺は巡察に出る。」
「あー、ちょい待てって。」
耐え性がねぇやつだな。
「お前さ、実のところ、どう思った?」
「どう、とは何のことだ。」
「千鶴に決まってんだろ。」
「・・・・・。」
「俺が駆け込んできたとき、お前の背中にしがみつくようにしてただろ、千鶴。布巻いてるっつっても、男ならなんも思わないわけねぇよな。」
「何が言いたい。」
殺気を滲ませたような鋭い視線で射抜いてくるが、生憎とそんなもんで怯むほどやわじゃねぇんだわ。
「女に興味ないお前でも千鶴相手なら、欲情したんじゃねぇかなって思ってよ。」
「ッ…、」
かすかに目を細めた斎藤に、俺は内心興奮を隠せない。
なんとなく、気づいちゃいたが、あまりにも目の前のやつの冷静さを見せ付けられて誤魔化されていた。
こいつは、あの時、冷静なんかじゃなかった。
「ま、仕方ねぇよ。俺から見てもあのときの千鶴は色っぽかったしなぁ、」
「左之。」
「なんだよ。」
「お前には、どう見えていた。」
「・・・なんのことだよ。」
「昨晩の千鶴を見て、どう思ったかと聞いている。」
「どうって・・今言っただろうが。色っぽかったって。」
今度は俺が吐かされる番ってわけか。ま、別に隠すつもりはねぇけど。
「客観的な意見を聞いているのではないことぐらい分かっているのだろう。」
「・・・・、正直、俺はあいつのあの姿を見て欲情したぜ。艶っぽい目して、お前にしがみついてな。妬いてない、なんて嘘吐くほど俺は卑怯もんじゃねぇよ。」
「・・・・・、そうか。」
斎藤はしばらく瞳を伏せていたが、ゆっくりと顔を上げて俺をまっすぐ見据える。
「俺も正直に答えよう。あの時、後ろにいた彼女の存在を少なからず意識していた。
アンタが来てくれなかったら・・・、いや、新八が入ってこなかったら・・俺は自分を抑えられていたか自信はない。」
珍しいこともあるもんだぜ。斎藤が本音で話してくるなんて。
だが、男同士、吐き出すもん吐き出し合うって、たまには悪くないんじゃねぇかとも思う。
「ま、お互い、しばらくは停戦といこうぜ。目先の問題は総司のやつ、だと思うからよ。」
「ああ、そうだな。」
お互いがお互いを虚勢し合って、それでもどこか胸の中がスッキリしたような気がして気分がいい。
血生臭い屯所の中にあるたった一つの素朴な華の、微かに香る色香に、俺たちは揃いも揃って夢中になっちまってるらしい。
人ばっかり斬り殺している俺たちでも、たった一人の女を守ってやることができるっつーのも、嬉しいもんだし、な。
「・・それにしても、マジで羨ましい光景だったよなぁ・・。」
「だからって風呂を覗こうとするなよ。」
「・・・・・・・・・・・しねーよ。」
巡察に出るため屯所口に向かう斎藤と並んで歩きながら、ぼんやりと昨夜のあの光景を思い出す。
いや、いろいろすっ飛ばして感想言えば、俺が斎藤の位置に居たかったぜ。正直な話。
@あとがき
タイトルに斎藤、原田、藤堂編って書いておきながら、平助の出番がまるでないっていう・・ね、かわいそうなことをしてしまいました・・。なんとなく、平ちゃん抜きで大人の男同士、吐き出すもん吐き出そーって感じで書きたかったのです。
男ふたり、実は千鶴に盛ってますよーっていう、ぶっちゃけ話でした!!
いつかこの話をシナリオとして漫画書きたいです。。。でも、同人やる時間が皆無なんで、夢のまた夢だろーなぁ・・。
次回は、「男たちの下世話な話」を執筆いたします!!
ちょっと、下品かもしれない。でも、そんなこともないかもしれない。どっちだろう・・。
混浴騒動後日談の土方たちと、IF番外編は今後のUP予定です。
ではでは、閲覧くださってありがとうございましたー。ご意見ご感想ありましたらコメントにてお願いします。
斉藤さんも、男なんです…(´∀`)
随想録では千鶴にドキドキしてる斉藤さんが、可愛いですよね~