ぎゅっと、拳を握り締めて、平助君は顔を上げた。
「ほ、ほら・・二人が帰ってくるまでまだ時間あるしさー」
「・・・平助君?」
無理やり作ったような笑顔に首を傾げるも、確かに彼の言うとおりまだ日は高い。
巡察から原田さんと永倉さんが戻ってくるにはもう少し待たなくてはいけない。
「な、な、巡察中の二人をさーからかってやろうぜ!」
「・・・うん!」
なんだか、早く、早くとせがむ子どものような彼の様子に思わず頬を緩めて、私は首を縦に振った。
「千鶴!こっちだって、次はあの店いこーぜ!」
「待って、平助君、待って・・」
腕を引かれてあっち、こっち、次はあそこで、その次は・・って平助君は初めて町に出たみたいにはしゃいで京都を早足で案内してくれた。
穿き慣れたはずの草履も今では久しぶりとばかりに邪魔をしてくれて上手く走れない。
けれど、平助君はそんなことお構いなしに私の腕を引いて走る走る。
カランコロンと優雅な音を立ててくれるはずの草履はカラカラカラと乾いた音を響かせる。
「前に左之さんが教えてくれたんだよ!あの店の餡蜜めちゃくちゃうめーんだって!」
「・・う、うん、た、楽しみだね!」
息も絶え絶えな私とは正反対に彼は楽しそうに、嬉しそうに頬を緩めて満面の笑みを浮かべている。
なんだかその笑顔を見ているとこちらまで嬉しくなって必死に走った。
「あ、やっぱすっげー並んでる!」
「・・・っそ、そうだ、ね・・・」
腕を引いて走る平助君は道の先の目当ての店に行列が出来ているのを見て眉をひそめた。
けれど私はそれに関しての意見を言う余裕なんてなくて、とにかく足を止めようものなら転ぶ!と必死に走って・・、息が、そろそろ限界だなーなんて思い始めていた。
「・・・は、はぁ・・・は・・」
「あー・・じゃーさ、先にあっちの店にって、っ・・!」
急にピタリと足を止めた平助君の背中に、私を勢いを殺せずに突っ込んだ。
「っー・・千鶴?」
「は・・・・はぁ・・、ご、ごめんなさ・・・・はぁ、はぁ・・・」
私の体当たりに目を見開いて平助君がこちらをようやく振り返る。
しかし、謝罪の言葉を述べようにも呼吸が落ち着かず、その背にしがみついたまま必死で息を整えた。
「え・・な、千鶴!?ど・・どうしたんだよ?」
「へい、すけくん・・ずっと・・、走ってる、から・・・」
私の言葉に彼は顔を青くして慌てだす。
「ご、ごめん!俺、いろいろ回りたくて・・」
ずるずると地面に崩れそうにある私の両腕を支えながら平助君は私の顔と周囲とを交互に見遣った。
「あ、そこ!そこの茶屋入って休憩しようぜ!な!」
返事も待たずに彼は私をすぐ傍の茶屋に引っ張り込んだ。
「すいませーん。ちょっと休憩させて!」
大声で叫びながら店の中に押し入って、私の様子を見て驚いた女将さんがすぐに上の部屋へ通してくれた。
「ちづるー・・大丈夫か?」
「う・・ん、なんとか・・」
ようやく落ち着いてきたのは、部屋に腰を下ろして女将さんから差し入れてもらったお茶を飲んだ後だった。
「ほんと・・ごめんな。」
「ううん、大丈夫。」
申し訳なさそうに眉を下げて謝る平助君に対して、私は緩く首を振る。
「でも、どうしてあんなに急いでたの?」
私は疑問に思っていたことを口にした。
原田さんたちと合流する前に行きたい場所でもあったのだろうかと、最初はそう思っていたけれど、あっちもこっちもと言う彼にその考えはないだろうと思い直していた。
「え・・、あ、あー・・・あのさ、」
「うん。」
私の質問に平助君は一瞬、目を丸くして、でも次にすすっと視線を逸らした。
「平助君?」
「・・・・・・は、はじめて、だったじゃん?」
「・・?」
「二人っきりで出かける、とか・・」
ぽつりと呟くように平助君は言う。
「俺、千鶴と二人で出かけるの・・嬉しくて、なんか、周り見えなくなってたんだ。」
@あとがき
珍しく平助くんのみの出演です(*^v^*)
お正月SSで佳奈子ちゃんに贈ったものですが、サイト持ってないのでこっちで公開してーっと言われてブログ用に編集してます!で、加えて修正許可も頂いたのでせっかくなので連載しちゃおうかなーって思ってます。企画ページに載せていますが、長くなるようだったらシリーズ一覧に移動させますね。
■拍手お返事!!
>ナツメさま
メッセージ有難うございます!!
逢引日和2アップしました。楽しんでいただけたら嬉しいです!(^U^)
GWも最終日ですね
「最後だけどやることないしまた読み返そうかな・・・」
なんて思っていたら
「また新しい話出てる!やったぁーー!」
って一人舞い上がっていました
平助すっごいカッコいいし可愛いですね
すっごい面白かったです!
またお邪魔させていただきます
いらっしゃいませv
いつもメッセージありがとうございます!!
感想いただけると更新頑張ろうって気持ちになるのですごく有難いです!
GWも終わってしまいますね・・最終日が雨だったので、少し残念ですが、なんとか更新することも出来たので良かったなーって思ってます。
それにしても・・曽良さんの気持ち、すっごく分かります!
あれですよね、なんていうか・・昨日更新してて、連続更新はないだろうなーって思ってたらまさかの連続更新!っていうはしゃぐ気持ち!(笑)
喜んで頂けてよかったですー。ちなみに、明日も夜ぐらいには更新出来ると思いますのでお時間ありましたら遊びにいらしてくださいね。
平助君、次回も頑張ります!!(><)