女将さんに甘味を断って、部屋に戻ってきた平助君は、どこか真剣な目をしていた。
なんだか、急に怖くなってしまって、畳の上を後ずさる。
「平助くん・・どう、したの?」
「なにが?」
「わかんないけど・・でも、なんか様子が変だよ・・?」
「・・・俺も、自分が分かんないんだよ。」
障子を静かに閉めて、平助君は小さく呟くように言う。
「今日は、本当に普通にお前に喜んでもらいたかっただけなんだ。でもさ、」
床に座ったままの私には、立ち尽くす平助君の顔をよく見えた。
少し寂しそうで、でも何かを耐えるかのように苦しげな表情。
「それで、終わっちゃうんだ。」
「え・・?終わるって、なにが?」
「・・お前と、二人でいられる時間」
「あ・・、」
扉に背をつけたまま、俯く平助君は、しょんぼりとしている。
なんだか急に不安になって駆け寄って顔を覗き込んだ。
「で、でも、また一緒に出かける機会あると思うよ!」
「・・土方さんが許可くれるかどうかわかんねーし、次は絶対あの二人に邪魔されるし。」
「あの二人?」
「左之さんと新八っつぁん・・、あ、でも総司もうるせーだろーし。」
拗ねた口調で呟く彼には申し訳なかったけれど、なんだか少し嬉しくて・・。
「・・・千鶴」
「な、なに?」
「なんで笑ってんの?」
むーっと口を尖らせる彼に指摘されて、私は手で口元を押さえた。
「わ、笑ってなんか、いません!」
「笑ってたし。なんだよ、ガキみたいだとか、そう思ってんだろ?どーせさー」
「違うよ!そうじゃなくて・・、あの、嬉しかったって・・言ったら怒る、かな。」
「嬉しい?」
怪訝な顔でこちらを見遣る平助君に苦笑を返す。
「だって、二人で出かけるのが最後かもしれないって、それで平助君は寂しがってくれているんでしょう?」
「な・・・・っ、」
きょとん、としていた目が見開かれて驚きと一緒に頬から耳まで赤く染まっていく。
「私も、今日は平助君と一緒に出かけられて嬉しかったし、ちゃんと女の子の格好で町を歩くって、ちょっと前までは普通だったのに今はすごく遠いことだから、連れ出してくれた平助君にいっぱい感謝もしてるんだよ!」
「・・・・ち、づる」
照れくさい、と顔を掌で覆う平助君が、少し可愛くて、その腕を掴んで部屋の中まで引っ張る。
「ね、だから、今度は二人でお願いしに行こうよ、土方さんに。」
「で、でもさー・・」
「あ、だったら近藤さんにお願いしてみたらどうかな!」
「・・・ぷっ、近藤さんなら即決で許可くれるって!」
噴出した平助君は、そこは盲点だったーって笑い出す。
部屋の中の雰囲気がいつものように穏やかなものに戻ってホッと胸を撫で下ろした。
「あ、ねぇ平助君。さっき女将さんに断った餡蜜とお団子、持って来てもらおうよ。」
そうして、それ食べたらまた町に出よう、って、そう続けようとしてけれどぎゅっと手を握られて言葉が喉の辺りで止まる。
「・・・平助君?」
「千鶴、俺って単純ですぐに誤魔化せるって総司によく言われるんだけどさ・・」
ぎゅっと掴まれた腕を引かれて部屋の奥へと導かれる。
障子扉を開けば隣の間に布団が引かれているのが目に飛び込んでくる。
急に、妙な不安が全身を駆け巡った。
「言ったじゃん?お前と二人でって時間、もう終わっちゃうって。」
「でも、それは・・」
それは、きっとまたお願いすれば・・
「ん、千鶴の言うとおり、頼めばまた機会あると思う。総司とかに邪魔されなくてまたこうして町にって・・可能性がないわけじゃない。でもさ、」
布団のすぐ傍にぴたりと足を止めた平助君は、ひどく寂しげな表情を携えて私を振り返る。
「今日が、最後かもしんない。」
「・・・・・へい、すけくん」
ふわりと、身体が浮いて、驚いて目を見開けばそのまま布団に優しく身体を沈められる。
「・・ごめんな、千鶴」
@あとがき
ごめんね、平助君・・なんか、美味しそうな場面で次回に続く、なノリにしちゃって・・。
暴走平助君はどこまでならOKですか?
実は、私の中で一番書きやすいのが彼なんです。
その次に総司で左之さん、一君と続く感じ・・あ、新八っつぁんは出演させやすいけど千鶴と二人っきりで絡ませるときにどうしようか悩んで、結局難しい・・・・。
とりあえず、次回からすこーし艶っぽいお話になっていくかもしれないので、自己責任でご覧くださいませ。平助君はちゅーだけで精一杯だよ!その先なんて見たくないよ!って方は、回れ右していただいた方がいいかも、しれないです・・。や、まだどんな感じになっていくか分からないですけども。行き当たりばったりなんで・・(´∀`)