「お客さん、お連れ様が下にいらしてますけどお通ししてよろしいですか?」
スッと、冷静な声に頭の中が冷えた。
+++
「・・え?・・・つ、連れ?」
隣の間の障子戸の向こう側に店の人が来ているようだった。
最初にここを案内した女将さんではないようだったけれど、やはり雰囲気を読んでくれたのか戸を開こうとはしない。
すぐに平助君から離れて汗ばんだ肌を大雑把に布で拭い、着物を着付ける。
「ちょ、ちょっと待って!連れってどんな奴?」
平助君も崩した着物を慌てて整えながら手前の間に向かう。
そっとこちらの間を仕切るように障子を半分閉めてくれたのはその間に着替えろということらしい。
「永倉様とお連れ二方が下の茶屋でお待ちしています」
「って、新八っつぁん!?やば・・、えっと、すぐ下に行くから待っててもらって!」
「かしこまりました」
店の人の気配がスッと遠ざかり、階下に下りたらしい。
バタバタと焦ったように平助君が戻ってくる。
「ち、千鶴、新八っつぁんたちが下に来てるんだ、けど・・」
「・・平助君?」
思い切り障子が引かれ平助君が飛び込んでくる。
けれど、彼は私の姿を見てから目を丸くして固まってしまう。
「・・・あ、いや、あの・・、」
「どうしたの?」
ほんの少し、照れくさくてちゃんと顔を見ることが出来なかったけど、それでも平静を装う。
けれど、平助君は一歩、二歩、と足元をおぼつかなくして近寄ってきて、私の正面でピタリと止まる。
「・・・なんか、千鶴、すげー色っぽい・・、」
「・・・え、えぇ?」
真剣に、とんでもないことをポツリと呟いた平助君に、慌てて首を横に振る。
「なんか、ちょっと汗ばんでて、目が潤んでて・・・、あー!ヤベ、俺またがっついちまいそう!」
ブルブルと頭を振って彼は俯き、今日何度目か分からない謝罪を口にした。
「ちづる・・、ごめんな」
「・・謝らないで、平助君」
「でも、俺・・」
申し訳なさそうに眉を下げてしょんぼりとする平助君は、いつもの彼に戻っていて、心の中でホッと息をついた。
「へいす「平助ーっ!!」
私の言葉を遮って、障子扉が壊れそうな勢いをつけて開かれる。
「勝手に抜け駆けして千鶴ちゃん連れ出すなんて、どういう了見だ!」
どかどかと不機嫌な顔をして、永倉さんが部屋に押し入ってきた。
その後を原田さんと沖田さんが続いている。・・・え、沖田さん?
「抜け駆けに関しては新八さんだって同じでしょ?僕に黙って三人でこそこそとさー」
「お前ぇはよく一人で抜け駆けしてやがんだろうが!」
口を尖らせた沖田さんに永倉さんは怒鳴り散らし、それから私の姿を目に留めて「んん?」と首をかしげた。
「・・・千鶴ちゃん?」
「えっと・・、はい」
なんとなく、つられるように私も首をかしげた。
「千鶴ちゃん、だよな・・」
「え?そうですけど・・」
目をパチパチ、何度か瞬いてから永倉さんは平助君に向かっていた軌道をこちらに向ける。
「お、おぉ、おぉぉ!すっげー似合ってる!」
「え、え、あ・・ありがとう、ございます」
「新八ぃ、千鶴びびってんぞ」
ずずい、と迫られるように永倉さんに覗き込まれて、一歩二歩と後退する。
呆れたように原田さんはため息をはいて勢い余った永倉さんの肩を掴んで諌める。
「にしても・・、確かに、よく似合ってるぜ、千鶴」
「あ・・いえ、私の方こそ、こんな素敵な着物頂いてしまって・・有難うございます」
慌てて頭を下げればすっとその首筋に原田さんが触れてくる。
「・・・っ、」
「じっとしてろ」
少し硬めの声で制され、私は頭を下げたまま動きを止めた。
「左之、てめぇ何やって・・」
「うるせぇ、おめぇは平助どついてこい」
厳しく声を尖らせる原田さんに永倉さんは眉をひそめ、しぶしぶといった具合に一歩引いた。
「・・原田、さん?」
@あとがき
実は、大幅カットしてしまったのですが、左之さんと新八っつぁんが千鶴と平助を探しに駆けずり回るシーンがあったりします。で、総司も合流してドタバタと平助たちのいる茶屋を発見!っていう今回はすっかり脇役の3人組のお話。でも、いつもはカットしないわいわいな展開のお話も、今回は雰囲気や流れを考えて削除しました。ちょーっと残念だったり寂しかったりしますが、今までのお話でも意外とカットしてしまったシーン・・実は少なくないんです。
・・そういうのって、少し、寂しいですよね。
例えば、作品としてはカットして当たり前なシーンでも、でもその1シーンにもお話があるのだから・・会話や仕草とか、簡単に生み出したものじゃないから簡単に消してしまいたくなくて・・、こういうのってあんまりよくない考え方かもしれませんが、私は・・どうしても、悲しくなってしまいます(´-`;)
話は変わりますが!
実はコッソリ開催していた1週間連続更新企画!
がんばったー・・・ブログ開設当時は必死に毎日更新してましたが、私生活に追われて、専ら週一ないし月一な更新が続き・・ブランクで大変でしたが、何とか成し遂げました!でも、1週間といわずに頑張れるだけ頑張ろうと思います!!電池が切れたら・・誰か新しい電池入れてください!
嬉しいメッセージありがとうございます(^^)
更新頻度はそんなによくないのですが、毎日来ていただいても楽しんでいただけるように精一杯努めていきます。