あの日から、私は少しおかしいです・・。
「ちーづーるー!!」
「っはい!」
ビクビクーと思いきり肩を震わせれば、私の名を元気に呼んだ彼がおかしそうに笑いながら首をかしげた。
「なになに?どしたー?」
「・・ううん、なんでもないの。平助君こそどうしたの?」
「あ、そだそだ。」
すぐに気を取り直して、彼は両手に抱えた山のような芋を私に差し出す。
「これでさ、焼き芋しよーぜ!」
「わぁ!すごく沢山!!」
「近藤さんがくれたんだー。新八っつぁんたちにバレるとうるせーからあっち、あっちに行って焼こーぜ!」
平助君が顎で指した方は裏庭で、責務に忙しい近藤さんや土方さんが来ることは滅多にない。
顔いっぱいに嬉しそうな表情を浮かべる彼にどこかでホッとしつつ、私は掃き掃除で集めた落ち葉を裏庭に移動させた。
「おいおい、こんなとこで焚き火か?」
「あ、左之さん」
まだかなーまだかなーと焚き火の前で座り込む平助君にお茶の準備をしてくると告げて傍から離れたのは、ほんの少し前。
途中で原田さんに会って、世間話をしながら一緒に裏庭までやって来た。
彼は、平助君がしゃがみこんで見ている焚き火に気づいて目を丸くした。
「ん・・、なんかいい匂いだな。・・・芋、か」
「そそ!近藤さんに貰ってさ、普通に蒸かすよりこうして食ったほうがうめーじゃん?」
「まぁ、そりゃそうだが・・お、このあたりいいんじゃねぇ?」
裏庭に設置された腰がけに湯飲みを置き、原田さんと一緒に平助君の横にしゃがみこんだ。
そうして、落ちている枝で焼き加減を見る。
ふんわりと、甘い匂いが一帯を充たして食欲をそそる。
「ちょっと左之さん!そのでっかいの、俺が狙ってたやつ!」
と、大きな声を上げて平助君は原田さんが手に取った芋を奪い取る。
「・・お前さ、んなことばっか言ってると新八みたいになっちまうぜ?」
「・・・え、えぇえ!?」
呆れたようにため息を吐き出した原田さんは、奪われてすっかり寂しくなった手元に視線を落とす。
奪われたことに関しては大して気にしていない様子で別の芋を漁って、いい焼き加減の芋をひょいっと掴む。
「とと・・、あっちぃな」
「大丈夫ですか?」
「お、ありがとよ」
今まで焚き火の中にあった芋を直接掴むだなんて、熱いに決まっている。
珍しくそそっかしい原田さんに笑みをこぼしながら、私は布を差し出した。
「千鶴、俺にも布!」
「うん、どうぞ」
枝に刺したままの芋を私から受け取った布でくるりと巻いて、平助君は勢いよくかぶりつく。
「あっっつーーー!!でも、うめー!」
「お前ってほんと、騒がしいな」
ほくほくと熱い芋を口の中で冷まして、平助君はガツガツと口に含む。
その様子を横目で見ていた原田さんは私が差し出したお茶の湯飲みを受け取りながら少し小声で言う。
「だって、マジでうめーんだし!」
「んな騒いでっと新八に見つかっちまうぜ?」
「うわ、そーだった!新八っつぁんにだけは隠し通さねぇと!」
こんなに騒いでいたのだし、永倉さんに見つかるのも時間の問題だとは思うけれど、それでも平助君は見つからないように、とお行儀よく食べ方を改める。
そんな様子が微笑ましくて、思わず口元に笑みを浮かべれば、少し小さめの芋が目の前に差し出される。
「ちーづる、これ、もうそんなに熱くねーと思うから」
「あ・・、ありがとう」
平助君から差し出された芋を手に取れば、布を巻かなくても平気なほど丁度いい熱さに冷ましてあった。
些細な気遣いが、胸の奥までじんわりと伝わり嬉しくなる。
食べやすいように芋の両端を持って半分に割れば、表面とは違い内に留まった熱がふわりと頬を掠めてぎゅっと目を瞑る。
「・・・、」
「千鶴、どうした?」
ぎゅーっと目を瞑ったままの私に原田さんが気遣うように声色を優しくして問いかける。
しかし、熱気を受けて目がじんじんするだけですぐに収まるだろうと「大丈夫です」とだけ返して首を振る。
「目、痛いのか?」
「あ、でも、もう・・」
大丈夫、と瞼を持ち上げれば視界いっぱいに平助君の顔がある。
思いがけず近すぎる距離に驚いて無意識に私は手に持った芋を落とし彼の肩を強く押していた。
「・・・ご、ごめんなさ・・」
思わず、赤くなった頬を見られまいとして俯いた。
平助君がどういう顔をしているか、分からない。
傷つけて、しまったかもしれない。呆れてしまったのかもしれない。
それでも、今、彼とまっすぐ向き合うことが出来なくて、私はそのままぺこりと頭を下げてその場から逃げ出した。
@あとがき
「逢引日和」より数日後のお話です。
初々しい感じで、千鶴ちゃんが奮闘します!
お付き合い、よろしくお願いいたします(*^◇^*)
@お知らせ
日時:2009年5月20日(水) 01:00~07:00
上記の日程にブログのメンテナンスが行われます。
メンテナンス作業中は編集はもちろん、閲覧も出来ませんのでご注意ください。
メッセージ有難うございます。
毎日・・は、結構しんどいのですが、頑張れるだけ頑張ってみます!やっぱり時間が空くと話の流れが分からなくなってしまいますからね(^^;)
あ、4/1の件、私も公式で拝見して驚きました!
発売日には書店までダッシュで買いに行こうと思ってます!お言葉掛けてくださって有難うございます!!