その場に残された平助は肩を押された反動で地面に尻を付いたまま呆然としていた。
「・・・左之さん、」
名を呼ばれ、しかし平助は千鶴の去った方に目をやったまま動かない。
返事をする代わりに沈黙で先を促す。
「・・・・やっぱ、俺、嫌われちゃったのかな・・」
「今の態度を見て、本気でそう思ってんなら、お前は本物の馬鹿だな」
普段ならムキになって馬鹿じゃない!と騒ぎ立てるくせに、さすがに今はこくんと素直に頷くだけだった。
「・・俺、分かってる。今のが、どういう意味なのかって・・でも、」
煮え切らない言葉。
平助は泣き出してしまいそうなほど、くしゃりと表情を歪める。
「ごめん、左之さん。この芋さ、新八っつぁんにでもあげてよ」
まだいくつも落ち葉に埋もれている芋をそのままに、平助はゆっくりと腰を持ち上げた。
そうして、千鶴を追うでもなくとぼとぼとその場から去っていく。
その背を見ながら、俺はなんとも言えずため息を漏らした。
「・・・ほんと、ガキだな」
+++
どうしよう、どうしよう、
平助君にあんな態度を取ってしまって、
私の頭の中はぐちゃぐちゃで、ただひたすらに目的もなく屯所の奥へと進んでいた。
廊下をどう進んで、ここはどの辺りなのかだって分からない。
自分の混乱具合に、急に怖くなって誰の部屋かも分からぬ部屋の前でしゃがみこんでしまった。
「・・・雪村、」
「さい、とう・・さん」
崩れ落ちたように不恰好なまま廊下でしゃがみこんでいた私の前に、ほんの微かに眉を寄せて立つ斉藤さんがいて、思わずその着物の裾を握り締めていた。
「どうした、何かあったのか?」
「あ・・、いえ、すみません」
気遣うように優しい声が耳に届いて、サッと頭の中が冷えた。
自分が握ってしまったせいで少し皺になった裾を気にするでもなく、彼は私の横に静かに腰を下ろす。
「ゆきむ「あ、あの!斉藤さんはどうしてここに?」
追求されたら、甘えてしまう。
こんな自分でもよく分かっていない感情を相談するなんて、そんな迷惑なこと出来るわけがない。
無理やりにでも彼の言葉を遮って、私は話題を変える。
「どうしてもなにも、ここは俺の部屋の前だ」
「え・・・、そう、だったんですか・・」
斉藤さんの顔とすぐ傍の戸を見比べて、そんなところまで歩いてきてしまっていたんだ・・と驚く。
私がいた中庭は斉藤さんの部屋とは随分離れていたはずだ。
「・・話したくないのであれば何も口にする必要はない」
「え・・、」
「見当はついている。大方、平助のことで悩んでいるのだろう」
「・・・・・」
「俺はその一件に関して大して知っているわけではない。ただ、」
まるで、励ますように、斉藤さんは言葉を選んでくれているようだった。
私は、不謹慎にもその声を聞き和んで、心が絆されていくのを感じていた。
「平助は、そんなに子どもではない」
ぼんやりと斉藤さんを見上げる私に、彼はほんの僅かな微笑みを作る。
「あいつの口から出る言葉はいつだってお前に関してだ。総司がうるさいと言っても止まず嬉しそうにお前のことを話している」
「・・平助君が」
いつもの元気いっぱいの彼の姿が頭の中に浮かんで、
でも、複雑な自分の心を整理するのが難しい。
「お前たちの問題だ。俺は関わるつもりはない。だが、」
ぽんぽん、と私の頭を優しくなでながら斉藤さんは、微笑む。
「お前は、落ち込む顔よりも笑っている方が似合っていると、思う」
不器用に、慰めてくれる様に、心の中が充たされて、
私は今の自分に出来る精一杯の笑顔で答えた。
@あとがき
本当は、斉藤さんじゃなくて沖田を登場させるつもりでした。
いつものように沖田のちょっかいがはじまって・・って、でも、今回は慰めてくれる人、を考えて一君にチェンジ!不器用な慰め方ですが、きっと千鶴ちゃんは沖田君より一君の方が癒されるんじゃないかなーっと(笑)
TOPでも明記してありますが、ウイルスがとても問題になってきています。
関連サイトのURLもぺたりしてあるので、サイトを運営なさっている方は一度ご確認なさってくださいね。