「・・・で、どうすんだ?」
空になった湯飲みを床に置き、新八は面白そうに口角を持ち上げる。
「どうするもなにも、平助もガキじゃねぇんだ。俺らがお膳立てしてやらなくても自分でなんとかするだろ」
「そうじゃなくてよ、千鶴ちゃんのこと」
「・・・あいつが、平助を選ぶってんなら俺が口を挟む権利はねぇ」
「そういうもんかねー、欲しいもんは奪っちまえばいいのによ」
肩をすくめ新八は面倒そうに視線を逸らす。
他人事だからかあっさりと大層なことを告げる奴に、深くため息をつく。
「奪っちまうって、お前なぁ・・」
「平助に千鶴ちゃんはもったいねぇって。ありゃぁ、別嬪さんになるって、俺は思うね!」
「そりゃ、千鶴は器量がいいけどよ。そういう問題じゃねぇだろ」
「-・・左之、」
「あ?」
「千鶴ちゃんが平助を選んじまって、てめぇはそれで納得できんのか?」
「・・・できる、できねぇの問題じゃねぇよ」
千鶴が選んだんなら、納得するしかねぇ。
あいつが幸せだっていうのなら、俺は黙って身を引くべきだろうさ。
「・・・・・てめぇも相当、重症だな」
「あ?新八、何が言いてぇんだ」
呆れたように捨て台詞を吐いて新八が席を立つ。
それを目で追いながら、俺は無意識に腹の底から低い声を出していた。
「・・・まぁ、おめぇが平助を応援してるってんなら俺はもう何も言わねぇよ」
広間から出る一瞬だけ、視線をこちらにやり、そしてさっさと背を向ける。
静かになった広間には綺麗に平らげられた膳がいくつかと、崩れて床を汚す膳が残される。
「・・・・・・・どうしろっていうんだよ」
冷めちまった湯飲みを床に置き、ゆっくりと腰を持ち上げ、この広間を後にした。
「・・斉藤と、千鶴?」
広間から出て腹の底から湧き上がる不快な気分にうんざりし、なにか気分転換でもしようと屯所の中を歩いていたとき、遠目に斉藤と千鶴の姿を確認する。
斉藤に呼び止められた風な千鶴は、はじめキョトンとしていたが、いくつか言葉を交わした後なにやら焦ったように自分が歩いてきた道を引き返す。
斉藤はその後姿をしばらく見つめた後、何事もなかったかのように千鶴とは反対側、俺がいる通路の方へ歩いてくる。
「斉藤、千鶴に何言いやがった」
あの焦った顔は尋常じゃない、と声色を厳しくしたつもりが、相手は特に気にした風もなくあっさり答えた。
「・・副長からの言伝を伝えただけだ」
「土方さんから、千鶴に?」
「お前が心配するような内容ではないから安心しろ。ただ・・、」
土方さんからの大抵の用事は斉藤や山崎が伝えていたはずだ。
焦ったようにあいつが土方さんの部屋に向かったっつーことは、呼び出し、ってことなんだろう。
・・が、
「ただ、なんだよ」
「少しの間、雪村が屯所を出ることになる」
「・・・・・・は?」
俺の面を見て、だから言いたくはなかったという面倒そうな表情を浮かべる。
「そ、そりゃぁ・・どういうことだ?」
「問題が起きたわけではない。平助が江戸に隊士を集めに行くのに同行するだけだ」
「隊士集め・・つーと、定期的に幹部が各所に向かってってやつか・・」
こういったことに向かない連中もいるが、源さんや平助といった人付き合いの上手いやつが土方さんの命で出向いたりしているらしい。
若い隊士は平助の人柄や力量を見て憧れることが多いらしく、向いているんだろうとは思っていたが・・、
「それで、なんで千鶴が一緒に同行ってことになるんだ」
「今回の目的地は江戸だ。彼女の実家があるのだろう。父親の目撃情報があるかもしれない、とのことだ」
「・・・そりゃ、そうかも・・しんねぇけどよ」
筋が通っちゃいるが、なんとなく、土方さんがそんな理由であいつを江戸に向かわせたのが納得できない。
無言で睨むように斉藤を見れば、ため息一つついて口を開く。
「・・平助と、雪村の不自然さに副長も気づいている。あんな様子では隊務に支障を来たしかねん」
「で、無理やり放り出して自分らで解決してこいってことか。土方さんにしては荒療治だな」
冷たく言い放てば斉藤が微かに眉を寄せる。
しかし、俺の苛立ちを悟ってか、それから呆れたように息を吐いた。
「・・心配なら、お前もついていけばいいだろう」
「いや、いいさ。荒療治だけど、確かにあの二人の問題だしな」
俺が、首を突っ込むわけにはいかねぇ。
言い捨ててしまえば、無理やりにでも自分を納得させることができるような気がした。
@あとがき
平助メインなのに、やっぱり左之さんは贔屓目です。
なんていうか、誰が相手でも結局は左之さんはいつだって千鶴の味方なんです!見守るお兄さん的な、ね!
そういえば、今我が家に大量の牛乳ゼリーがあります。
両親の友人が作ったらしく2Lパックくれたのですが・・・・・美味しいですよ。甘いですしね。でも・・さすがに、なんていうか、飽きる味というのか、大量に食べれるようなものじゃないというか・・。困ったなぁ・・。