斉藤さんから、土方さんからの呼び出しの伝言を受けて部屋へと急げばそこには複雑な顔をした先客が居た。
私が来たのを確認して、土方さんは重たげに口を開き話し始める。
「・・・は?ちょ・・・、え?」
「連絡事項は以上だ。出発は明日、精々活きのいい奴見つけてきてくれ」
「ちょっと、土方さん、本気で言ってんの!?」
平助君が目を丸くして、信じられないものを見るように目の前の土方さんを見つめる。
彼が驚いてくれていなかったら私が取り乱してしまっていたと思う。
「こんなこと嘘で言うわけねぇだろうが」
「だって、さ・・、いや、別に江戸に行くのをどうこう言ってるわけじゃねーよ!前にも何回か行ってるし、ただ、」
チラリとこちらに視線を向けて平助君は困ったように眉を下げた。
「なんで、千鶴も一緒に・・」
「二度同じことを言わせるな。そいつの実家は江戸だ、綱道さんが現れる可能性がある。以上だ」
「だーかーらー!んなの理由になってねーって!綱道さんなら俺だって顔見たことあるし、実家だって場所聞いておけばなんとかなるし!」
必死な様子の平助君と、反論したいが自分に口を挟む権利がないことを知っているので瞳を揺らしてみつめるだけの私を交互に見遣って、土方さんは不機嫌そうに眉をひそめた。
「・・平助、」
何日も寝ていなくて苛々している、ってそんな声色と表情で土方さんが静かに平助君の名を呼んだ。
瞬間、彼はビクリと肩を揺らして佇まいを正した。
「お前と、そいつの様子がおかしいってのは俺の耳にも届いてる」
「・・・っ、」
「上の空で巡察に行かれても下の奴らに支障を来たすってことだ。いいから文句言わずにそいつ連れて行け」
「でも、さ・・・」
少しだけ、後ろの位置に居る私を平助君が伺い見るように振り返り、すぐさま目の前の土方さんに向き直る。
「・・わかった、行けばいーんだろ!」
「おう、最初からそう言ってんだろ」
「あー!もう、土方さんって容赦ねーし!」
がばっと立ち上がって、無理やり私の腕を引っつかむ。
「え、平助君?」
確かに、私は命を素直に受けるしかないから文句を言ってる平助君の後ろでちょこんと座っていただけだけど、こんな風に部屋を出て行っていいものなのだろうか。
私の腕を掴んだまま部屋を出て行こうとする平助君を止められずに、後ろ髪を引かれる様に振り返れば困ったような呆れたような、そんな表情の土方さんが居た。
バタバタと、そのまま部屋を退出したとき、彼の小さな呟きが聞こえた気がした。
「へ、平助君、ね・・ねぇ、待って・・」
「・・・・・・」
ズンズン進んでいく平助君に引かれて、私は小走りでなんとかついていく。
いつもだったら、他の人よりもずっと身近に感じられる背中も、どこか遠くて、急に不安が胸の中で広がる。
「・・・千鶴、」
ピタリと、彼は歩みを止める。
腕を引かれていた私はそれにつられるように縺れそうになりながらも足を止めて立ち止まる。
「あ・・のさ、なんつーか・・、えっと、」
「・・・・?」
煮え切らない口調で、彼はしきりに言葉を選んでいるようだった。
しばらく悩んでいたようだったが、くるりと振り返って慣れ親しんだ笑顔を浮かべる。
「せっかくだから、隊士集めの合間に実家でゆっくりして来いよ!」
「え・・?」
「ほら、こんな男所帯に長いこと居たんだし、自分の家で久しぶりにゆっくりしたいだろ?」
「平助、君?」
「出発は明日の昼くらいだから、準備しといたほうがいいぜ!」
焦ったように矢継ぎ早に告げると、パッと繋がれた手を離してバタバタと走っていってしまう。
その背をぼんやりと見つめながら、なんとなく、違和感を感じる。
お互いに空回りして、今まで自然に行えていたことが、どうしたらいいのかわからない。
素直に目を見て、笑って、一緒にお団子食べて・・、そういうことが、今は不自然になってしまう。
寂しくて、悲しい。
「・・・千鶴」
「え・・、あ、土方さん」
少し俯き加減で、平助君の姿の見えなくなった廊下で佇んでいたら後ろから声がかかる。
すぐさま振り返って、声の主の姿を確認して声を落とした。
「あー・・、あれだ、今回ことだが」
「・・大丈夫です」
「・・・・」
少し居心地の悪そうに頭を掻く土方さんに、今出来る精一杯の笑顔で答えた。
@あとがき
すっごーく珍しく、土方さんが登場しました!
土方さん、嫌いじゃないんです。本編もすごく好きだったし、彼自身はとても魅力的なキャラクターなのですが、どうしても・・役がつかみきれないと言いましょうか・・、口調や性格が隊務と私情ではっきり区別している人だったので、難しくて・・・。今回は無理やり出演させましたが、やっぱり偽者ちっく・・・(;へ;)ごめんなさい。
@にっき
もうすぐ、逆転検事が発売しますね!!
すっごーく楽しみです!逆転シリーズは普通に主人公のなるほど君が可愛いし、ライバルの御剣検事も格好いいしで気に入ってたんですが、なんと御剣検事が主役のゲームが!と、ずーっと楽しみにしてました!!
御剣検事って、厳しいイメージが最初はあったのに、どんどんヘタレキャラになっていって、もう、なんていうか・・・、可愛いですよねぇ(*^ⅴ^*)あー・・楽しみです!!