「はー・・・食いすぎて腹いてぇ、」
「平助、お前は後先考えなさすぎなんだよ。」
帰り道、お腹をさすりながら平助君は眉をひそめる。
「大丈夫?」
「あー、大丈夫大丈夫。そんなことよりさー、」
平助君はちらり、と私の手持ちの荷に視線を向けた。
「わざわざ土産買ってくとか千鶴って人良すぎー。」
「だな。雑用なんかで多少は給金もらってるっつても、女はいろいろと入用だろ?
なのに自分の金でみんなに土産買いたいなんてな、」
感心したように、半ば呆れたように、
2人はそれぞれの反応を示しながらもお土産のお団子を持つ荷物係を進んで引き受けてくれた。
「私はいつも皆さんにお世話になりっぱなしです。
それに、お土産を頂いてばかりだから・・少しでもお礼がしたくって・・」
「うっわ、なんか今の台詞を総司や新八っつぁんにも聞かせてやりてーよ!」
「あぁ、あいつらには感謝のかの字も頭ん中に存在しねぇしな。」
「そ、そんなことないですよ。」
「ま、でも、お前からの土産ならみんな喜ぶと思うぜ。」
原田さんの大きくて暖かい手がぽんっと頭の上に乗せられる。
それから少し髪を乱すように撫でられる。
「は、原田さんっ、」
「左之さんやめてやれよ、千鶴の髪ぐっしゃぐしゃだって。」
「だったらいっそ、解いちまえばいいじゃねぇか。なぁ、」
原田さんは頭を撫でていた手で結い紐をいじる。
「だ、だめですよ!」
「ま、今日はいいとして。今度茶に出るときはこれ解いて振袖でも着せてやるから。」
「何言ってんだよ、左之さん!?ばれたら土方さんに怒られるぜー?」
「ばーか、綺麗なべべ着せて髪を結いなおして簪でもさせば千鶴だってきづかねぇって。」
「えー、」
2人は私を挟んだまま、私の女装に関して言い合って、嬉しいのか悲しいのか微妙な意見が飛び交う。
でも、出来れば私も、ちゃんと女の子の格好をして一緒にお茶に出かけてみたいけれど・・
ぼんやりと土方さんの顔を思い浮かべて、無理だろうな、と苦笑する。
屯所に帰って、午後の掃除を急いで済ませてから、昼の巡察から帰ってきていた斎藤さんと居合わせた井上さん島田さんにお土産のお団子を渡す。
お茶を入れて、和やかなお茶の時間。
斎藤さんはあんまり甘いものは食べないみたいだったけれど、それでもほんのりとと微笑んでくれて、嬉しかった。
土方さんや近藤さん、永倉さんにもお土産を手渡して回った。
マメな奴だよなぁ、と土方さんは苦笑しながらも受け取ってくれたのにはホッとした。
「さて、あと渡していないのは・・・」
手に持った最後の包みをじっと見つめる。
山崎さんはしばらく諜報で屯所を空けているし、全員分を買い込むことなんて出来なかったからあと渡せるのは1人くらいなんだけど・・
形が崩れないようにそっと団子を両手で持ちながら、私は屯所の奥、彼の部屋へと向かっていた。
「あの、沖田さん・・いらっしゃいますか?」
目的の人物の部屋の前でとまって、恐る恐る声をかける。
しかし、返事は返ってこなかった。
しばらく待って見たけれど、中から人の気配を感じないから外出しているのかもしれない。
今日は昼の巡察の後、こどもたちと遊ぶって言っていたし。
残念に思いながらもどこかホッとしている自分に気づかないフリをした。
なんとなく、後ろめたいというか・・、怖いって言うか、
甘味屋に行く途中に原田さんたちが話していた内容を思い出してしまって、頭を振った。
怖いなんて思っちゃ、失礼だよね。
「余っちゃったし…平助くんにあげようかな・・」
「僕には、くれないの?」
え・・?
思わず体が固まって、ゆっくりと振り返れば、先ほどは頑なに開くことを拒んでいた彼の部屋の障子が開いていて、
「ねぇ、それ、僕にくれようとして持ってきたんでしょ?」
「え、あ、はい・・」
いつもと変わらない笑顔のはずなのに、どうしてか直視できない。