「うん、でもやっぱり、君に囮をやってもらってよかったよ。」
「え?」
「すごく、似合ってるよ。」
含み笑いを口元に作り、彼はそっと私に触れた。
「・・・っ、えと、」
意外にも、顔を上げたら距離が近くてギクリと身体全体に緊張が走ってしまった。
それから顔に熱が集まっていくのが自分でも分かって、不自然にならないようにそぉーっと少しづつ距離を置いた。
「君にとってはこういう格好よりも普通の小袖とか振袖とか着たかったんだと思うけど、せっかく男装しなくていいんだから少し気軽に楽しんでもいいんじゃないかな。」
「・・沖田、さん。」
まさか、そんな風に気遣ってくださったなんて・・、と思わず目頭が熱くなる。
しかしすぐさま、その感動を宙に投げ捨てた。
「それにさ、男装した格好を剥ぐよりも楽しそうだし。」
「・・・・ど、どういう意味でしょうか。」
「あれ、わかんない?結構分かりやすい言葉を選んだつもりなんだけどなぁ。」
つつ、とまたしても距離を開ける。
丁度一人分程度の隙間が空いて、そこに冷たい風が抜けていく。
いつもならば少しずつ距離を開けていけばにっこりと笑顔を作って「何で逃げるの?」とか、分かりやすく私の逃げ道を塞ごうとする。けれど、今日に限っては、開けた分だけ当然のように距離は開いていく。
「ねぇ、千鶴ちゃん。」
「は、はい。」
「知ってる?この切り裂き事件の一番最初に殺された女の人のすぐ傍に、もう一つ骸が転がっていたってこと。」
「・・・え?」
微かに彼は視線を下げる。そうして額に影が差して吊り上げた口元が歪んで見える。
「何が、おっしゃりたいのですか?」
「その女の人ってさ、その日、客の誘いを断ってその殺された男と一緒に居たんだって。」
「誘いを断ってって、いうのは・・」
「うん、夜を共に、っていう客の誘いを断ったにもかかわらず、他の男と出てしまった。」
「えっと・・、」
やはり、よく分からない。
「まぁ、犯人が誰って分かったわけじゃないけど、再現は、出来てるよね。」
「さ、いげん・・?」
そうして、笑みを濃くして、私が開けたはずの距離を簡単に詰めて、沖田さんは少し強めの力で私の手首をぎゅっと掴んだ。
「ほら、お仕事だよ。千鶴ちゃん。今の君は、女の子なんだから。」
「・・っ、」
路地に押し込まれた身体は、そのまま壁に押し付けられ、拘束される。
急に背筋に嫌な悪寒のようなものが走り去る。
「お、沖田さん・・っ、」
「犯人を捕まえるためだよ、君は、囮・・なんだから。」
「っ・・や、だ・・・、」
両手首を壁に縫い付けられるように一まとめにされ押さえ込まれて、自分の意思では動くことが叶わない。そんな状況で、焦って、不安になって、ふるふると頭を振った。
しかし、ぎゅっと私を押さえつける彼の掌に力がこもって、ハッと顔を上げた。
ようやく絡み合った視線。彼の目はこの暗がりのせいで妖しげな色を灯している。
「・・・・っ、お、きた・・さん・・なんで、」
「辻斬りも切り裂き魔も、実際はどうでもいいんだよね。長州の奴らの手口には見えないし、ただ、面白そうだったから君に囮をさせてみたんだけど・・。」
彼は、私の焦ったような様子など全く気にしない態度で普段のようにゆっくりと含みを持たせながら話す。
「・・綺麗だよ、なんて、別に言ってあげるつもりはないんだけどさ・・ただ、少しだけ後悔はしたんだ。」
「・・・・・ッ!!」
喉の奥で、声にならない悲鳴をあげた。
彼は壁に押さえつけられた私に覆いかぶさるように近づいて首筋から鎖骨にかけて長い指先でするりと撫でた。
「新八さんとか左之さんとか、君のその格好見て顔赤くしてさ。まぁ、それはそれで面白い見世物ではあったけど。でも、僕が言い出したんだから、君がその姿を見せていいのは・・僕だけ、だよね?」
そんな、無茶苦茶な・・、と言葉に出してしまいそうで、でもすぐに飲み込んだ。
彼の目は、子供のような無茶を言っているようなものではなく、本当に、眼光を鋭く放ち、獲物を捕らえた獅子のように見えた。
「お、沖田さんがなにをおっしゃっているのか・・私には、よく、分かりません。けれど・・、」
流されてはだめだ、と強く心の中で唱える。
「これは、私に課せられた仕事です。私は、与えられた任務でこの着物を纏っています!だから・・、」
だから、この手を離してください。と、そこまで一気に叫んでしまうつもりが、急に何かに遮られる。
「うるさいよ、少し、黙ってて。」
「ん・・・っ、」
暖かい何かに口を塞がれている。
気づいたときには、顎を押さえられ、彼の整った顔がすぐ目の前にある。
「っ・・・!ん・・・、」
身を捩れば、彼は一瞬、眉間に皺を寄せる。
そのまま一度だけ口を離して、しかしすぐさま今度は角度を変えて再び呼吸さえも出来ぬほど強く塞がれる。
「・・・ん、・・・ぁ・・、」
熱い吐息が交わって、ぬるりとした何か、が私の中へと進入してくる。
怖くて、何がどうなっているのかなんて、変わり得なくて、ただ、この状況から逃げてしまいたくて、必死に私を押さえつける腕を押し返す。
「ねぇ、抵抗するのは自由だけど・・・」
「っ・・や、やだ・・!!」
暑い熱が急に口元から離れ、そうしてお互いの睡液が細い糸となって私たちを繋ぐ。
彼は、酷く残酷な笑みを浮かべながら私の着物の帯を力任せに引き剥がす。
@あとがき
ちょ、ちょっと急いで書き上げたので、後で修正しなければ!!
っと、こんばんわ(*^∀^*)昨日はせっかくの日曜日だったのに更新出来ず、ごめんなさい。今週は展示会が始まりますので少しバタバタしますが・・、ついつい拍手などで暖かいメッセージ頂くと休憩時間にふらふらっと、更新に立ち寄ってしまいます(ーー;)作業に集中せねばならないのですが、いかんせん5時間ごとに集中力が切れるのです。や、休憩は大事だと思うのですよ!!
えーっと、やっと沖田君がちゃんと登場してくれてよかったですー。
もともと、この囮捜査のお話、何が書きたいかって言われたら・・「千鶴が沖田君に襲われちゃう!!」ってのが書きたかった・・んです・・・・(^v^;)囮がどうとか、あんまり深刻なお話ではないので沖田君がただ千鶴ちゃん見て盛ってるよーって感じでサクッと読んで楽しんでいただければって思います。
実は年齢制限かける程度まで濃くしようかなぁ、と思っていたのですが・・相変わらずブログってことを考慮して控えめに・・させていただきます。いつか、沖田君お相手にちょっとダークなの、書いてみたいなぁ・・なんてぼんやり思ってたりします。いつになることやら。
拍手の更新は、日付が変わる頃になってしまうかもしれません・・。
一応、『設定⇒家族紹介編(1話目)⇒お兄ちゃん編(1~7)⇒挨拶』になる予定です。
ってなくらい、急展開でしたぁぁぁ!!
沖田くんの千鶴ちゃんに対する行動はもしかしたら、つぎの8くらいであるかなーと思ってましたが…準備できていなかったため血が一気に逆流しました(笑
それにしても…千尋さん…
沖田くん、次回何しでかすんですか?帯を力任せにって!!
千鶴ちゃんにしたら恐怖でしかないんでしょうけど…沖田くん、結構切ない感じの表情をしてるんですか…ね…。
囮に千鶴ちゃんを使ったのには後悔なんかなかったんでしょうけど、そのあとの事まで考えてなかったようですし。千鶴ちゃんの姿に見惚れるとか。何ともいえない感情が蠢いてる感じ、というんでしょうか。
読み取れない表情ほど怖いものもない気がしたんで、私の勝手な妄想です><
次回も楽しみにしてますっっ
そんな、もっとソフトに攻めさせるべきでした?いやいや、でもこれはある意味大成功?うーん・・・(´へ`;)
スクールライフなど、沖田君にはいろいろと一時停止させちゃっていたので、ついつい暴走させたい症候群が!!(*^∀^*)次回の彼は・・・、多分、このままストップが入らなければいくところまでいってしまうのではないかと・・・。でもでも、まだ登場していない彼がいますので、どうなることやら!ただ、笑さんが出血多量にならぬよう、ほどほどにしておきます!(笑)
沖田君的にはいろいろと考えるところもあったのでしょうけれど・・、言葉にしないと伝わらないってこと、誰かが教えてあげなくちゃいけませんよね;なんとなく、彼はそういうことを内に溜め込み過ぎな気がします。・・・まぁ、言葉にしてもしなくても、千鶴ちゃんのピンチにはかわりがないわけですが(^^;)
次回、が・・頑張ります!!