【囮捜査官！雪村千鶴－１２】

「原田さん・・、」


無意識に呟いたそれは、彼の耳に届いてしまう。


「心配すんな、別に怒ってるわけじゃねぇよ。」


振り返った彼の表情は、普段向けてくれるものと寸分違わず優しくて、今度こそ身体の力が抜けていった。





「ただ、総司の返答しだいじゃ、どうなっちまうかわかんねぇけどよ。」

「え・・・・・！？」




「返答次第、かぁ・・、特に言い訳したいこともないんだけど・・。」


スっと目を細めて、沖田さんは声色を変えることなく言う。
しかし、原田さんの鋭い視線を受けて彼は肩を軽く上げて、やれやれと息を吐いた。


「本当に言い逃れとかするつもりはないよ。まぁ、見ての通り・・ってやつかな。
千鶴ちゃんが心配で様子を見に来たってことも、彼女の恰好を見て悪戯したくなっちゃったのも事実だし、それに・・」



それに、という言葉の後、彼は続きを言いよどんだ。
原田さんにではない、私に向けられた視線は、無性に私の心の中を騒がせる。
心音が周りに聞こえてしまうんじゃないかって言うぐらいに大きな音を立てる。


「・・・・・千鶴、どうした？」



私の様子を敏感に察してくれた原田さんがそっと肩を抱いてくれる。
そのまま、彼は自分の羽織を私に掛けて、自分の後ろへと私を下がらせた。


「お前は少し下がってろ。」

「で、も・・」


「心配すんな。別に総司と斬り合おうってんじゃねぇよ。」



そうして、安心させるように柔らかい笑みをこちらに向けてくれる。
素直にコクンと頷いて返せば彼は私に背を向けて沖田さんと向かい合った。


一歩、二歩、下がる。


斬り合いにはならない、というけれど、なんだか不穏な空気が漂っている。
平助君と永倉さんは、さっきまであたふたしていたというのに、どこか真剣な目で二人を見遣っていて、斉藤さんまでもが止めることなく傍観を決め込んでしまっている。


それは、止める必要がないと分かっているからなのだろうか。


自分が原因で、こんな重い空気が出来上がってしまったという気持ちを払拭することが出来ず、
私はこんなにも不安で押しつぶされそうなのに、どうしていいのか分からずにただ立ちすくむことしか出来ない。


ぐっと唇を噛み締めて、それでも、何も出来ない、何もしないなんて我慢が出来なくて、
考えもなしに、二人の間に割って入ろうと足に力を入れたそのとき、


「・・・え・・！？」


ぐいっと、背後から強い力で引っ張られて、路地のさらに奥へと引きずりこまれる。
背後からの急な浮遊感に頭がぐらりと揺れて一瞬めまいで感覚を失った。
そうして、力が抜けたところで誰かの身体に抱きかかえられる。



「・・・え？」

「また、会えましたね。」


聞き慣れた、という表現はどこかしっくりとこないけれど、
それでも日常生活の中で幾度か耳にしたことがある、そして、一刻ほど前に聞いたばかりの、声色。



「あなたは・・、」

「先ほどは、どうも。」


にっこりと、人のいい笑顔を向けるその人は、実はよく見知った顔でもあった。
十番組の隊士の一人で、原田さんに巡察をご一緒させてもらったときに何度か顔をあわせた。

彼は、私の事情を知らぬ隊士達の中でも、とても優しくていつだって仲間に接するように気さくに話しかけてくれる人だった。


「まさか、あなたが組長たちと知り合いだったとは思いませんでした。見世では、少し・・強引すぎてしまってすみません・・。」

「あ・・、いえ・・、」


この場に似合わぬほど丁寧に謝罪をされてしまって、拍子抜けしてしまう。


本当ならば、この計ったように彼が現れたことをもっと不審に思うはずなのに、

私は気を抜きすぎていたのかもしれない。





「・・・・っ！！」


だからかもしれない、腹部に感じた痛みと熱が、どこか遠いものだと、思ってしまった。








＠あとがき

えーっと・・・、お久しぶりです！！！（＾∀＾）
なんとか、修羅場を乗り切り・・・いやいや全然乗り切ってないんですけど、まだまだ個展はあるし、卒業単位もギリギリで不安いっぱいで、卒業できるかー！？ってハラハラしっぱなしで、正直、旅にでも出てしまいたいくらいなんですが・・・旅に出るくらいなら薄桜鬼のお話書いて現実逃避でもしよう！と戻ってまいりました！！

一応２月もいろいろ不安定ではありますが、年末年始よりは多少時間が作れると思うので更新再開出来ると思います！！お待たせいたしました！！囮捜査もあと２話程度で終わりなので、新規で新しいお話書き始めようと思います！！今度は明るいお話がいーなー・・・・。

混浴騒動番外編は予想以上にハレンチなお話っぽいので、もう少し構想練ってから続き書きますね。さすがに、複数相手ーとかはまずいですし・・・、一応健全なお話メインなブログなので（最近・・健全とは程遠くなってきていますが・・（ーｖー；）

ではでは、今後ともよろしくお願いいたします！！