一位:沖田総司
「囮捜査官!雪村千鶴」の番外編となっております。
本編を先に拝読してからでないと多少話が分かりづらいかもしれません。
「あ、あの・・沖田、さん。」
おそるおそる、声をかける。
すると彼は、くるりと振り返って裏のないような柔らかい笑みを浮かべる。
「なに?」
だから、言い出しづらい。
「その、」
私が言い淀むと、彼は最初から待つつもりはなかったらしく、再び私に背を向けて今まで自分が手にしていた小袖を広げた。
「あ、ねぇ、これなんかいいんじゃない?」
淡い色合い。
可愛すぎるものでなくて、少し静かな印象を受けるけれど、裾に菖蒲が大きく一輪咲き誇る。
「わー、ほんと、綺麗です!」
「でしょ。千鶴ちゃんに似合うと思うよ。」
にっこりと、頷く彼にさっと頬に熱が集まる。
って、そうじゃないんです!思わず彼の調子に巻きこまれてしまったけれど、私はぐっと唇を噛み締めて告げる。
「そんな高価なもの頂くわけにはいきません!」
「どうして?」
「頂く理由がありませんし、今の私に似合うとも思えません。」
・・・はっきりと告げると彼は少し口を噤む。
笑顔だった顔がストンっと、無表情になって、怒っているわけではないと思うけれどそれでもどこかつまらなそうに微かに瞳を伏せる。
「・・理由が欲しいなら何か繕ってもいいけど、別に君が理由を気にする必要はないんだよね。」
「え?」
「君の意志に関わらず僕は君に何か贈るつもりなんだから。」
「で、ですが、」
「ねぇ、そんなことより、君は何か気に入ったものないの?」
相変わらず自分の調子で話を進める彼に気づかれぬように小さく息をついた。
あの囮捜査からもう数日が経ち、私はすっかり動き回れるほどに回復した。
たった一夜の出来事なのに、本当に長い時間が経過したかのようだった。
そうして、今日は非番だという沖田さんに腕を引かれ有無を言わせぬという風に連れ出され、反物屋に着ている。
彼は楽しげに私宛の小袖を選んでいる。
連れてきたのは沖田さんなのに、私の意見を取り入れるつもりはあまりないようだ。
普段から突拍子のない行動をとる人だったけれど、今日の彼は普段とは違って見える。
それから一刻ほどして、ようやく彼の満足のいく品があったらしく店の亭主を呼びつけ何やら話し込んでいる。
「沖田さん・・」
私には不安げに彼の名を呼ぶことしかできない。
「ん?どうしたの?」
「あの、さっきも言いましたが…」
「あぁ、その話はいいよ。それより、すごく可愛いのがあったよ。」
嬉しそうに話す彼は、本当に楽しそうだ。
「さっきの菖蒲も良かったけれど、君にはこっちの方がもっと似合うと思って。」
そう言って包んでもらったばかりの包み紙をそっと広げて見せてくれる。
淡い、淡い、本当に消えてしまいそうなほどに淡い桃色。
そして裾からゆっくりと舞うように散らされている桜。
純粋で、綺麗過ぎるそれを、受け取ることにどこか戸惑った。
「お、きたさん・・。」
「この小袖を、真っ赤に染めて欲しくはないんだけど。」
「・・っ、」
彼は、私を責めている。
咄嗟にそう思った。
「もう二度と、あんな無茶はしないで。」
「・・・・沖田さん。」
「次にあんなことがあったら、いっそもう外には出られないようにどこかに閉じ込めちゃうよ?」
冗談のように軽く言い切って、彼は開いていた包紙を丁寧に直した。
それから、用は済んだとばかりに私の腕をとって歩き出す。
「お・・、沖田さん・・!」
「・・・・・・。」
さっきの、どういう意味ですか?やっぱり怒ってらっしゃるんですか?
聞きたいのに、聞けなくて、それでもつながれた腕から伝わる温もりにホッとする。
ざかざかと、沖田さんにしては少し乱暴な足取り。
何度か転びそうになりながらも腕を強く引かれているので必死について歩く。
そのとき、
日も暮れ始めて、大分人並みも減った大通りを騒がしく駆け抜ける人たちが見えた。
腰に刀を差しているけれど、新選組の人たちではなかった。
長州の浪人、
着物の端に幾らも血痕をつけて、逃げるように通りを走り抜ける。
目が血走っていて、視線が合わぬように目を伏せた。
「・・・おい、ここらじゃないか?」
まだ幾らか距離があるが、男たちの声は風に乗ってこちらに届いた。
「新選組の沖田がこの辺を歩いてたって話・・・」
「あぁ、巡察でもなくふらりと出歩いていたってやつか。」
沖田さんの名前が出たとき、私は掴まれたままの腕に力を入れてしまう。
慌てて、すぐ傍にいる彼を見上げたら、じっと男たちのやり取りを窺っている。
「丁度いい!一人ならば我らだけでも始末できよう!!」
男たちの中の一人が叫ぶ。
その男に賛同するように周りの男たちも先ほどよりもさらに殺気だって血塗れたままだろう刀を握りしめ、再び走り出そうとする。
「お、おきたさん・・」
このままでは鉢合わせてしまう。
「・・心配しなくても、あんな奴らに僕が負けたりしないよ。」
普段と変わらぬ声色で、沖田さんは言い切る。
「でも、私がいては足手まといになってしまいます。」
「・・・・え?」
足手まといになるぐらいなら捨て置いてくれて構わない。
そう続けようとしたら、彼は「・・う、ん。」と、微かに考え込むように顔を伏せ、しかしすぐに面を上げる。
「・・・・・・・。」
「・・沖田さん?」
真正面からじっと見つめられる。
彼は私の呼びかけに答えることはなく、手に持っていた包みを乱暴に広げて小袖を取り出して私に被せる。
「・・え?あの、」
「じっとして、」
疑問符を浮かべる私に構わずに小袖を慌しい手つきで私に着付ける。
袴の上からなので多少ごわごわとしてしまうけれど、なんとなく形だけは繕って、それから
すでに閉まった商家の店先の壁に背を押し付けるようにして押さえ込まれる。
「なにを、」
言いかけた言葉は柔らかい感触と共に塞がれる。
バタバタと男たちがすぐ傍を駆け抜ける。
通りを背にした沖田さんの顔は男たちには見えていなかったようで、
でも、彼らはチラリとこちらに視線を向ける。
睨みつけるような視線と合う。
けれども、私たちの様子に気づいたのか気まずそうに顔を背けて走り去ってしまう。
「ねぇ、目、閉じなよ。」
「・・・っ、」
あまりにも驚いてしまったため、私は瞳を閉じることもなく情けなくも目を見開いてしまっていた。
柔らかい感触と温もりが離れて囁かれた言葉に、一気に頬いっぱいが朱に染まる。
「お、おきたさ、・・・ん!」
戸惑いの目を向ければ、彼はすぐさま再び私の唇を塞いだ。
普段の彼とは思えないほど荒くて、熱をぶつけてくるようなそれに、頭がくらくらする。
ちゅっと、離れた熱。
でも、また塞がれる。
「・・ん、・・・っぁ、」
歯列をなぞられて、背筋にぞくぞくとしたものが走る。
思わず彼の肩口にしがみついてしまい、離れようと腕をさっと引っ込めれば、それを許さないとばかりに押さえつけられる。
「ん、・・っふぁ、・・・・っ、、」
風邪を引いてしまったみたいに、頭の中がぼんやりとして、
口の中で自分のものではない舌が動き回って、翻弄されるのを他人事のように感じていた。
「っ・・・、は、はぁ・・、はぁ、」
いくらも時間は経っていないだろうけれど、
私にとってはとてつもなく長いときだったように思う。
「新選組の沖田だって、バレずに済んでよかったね。」
「・・・っ、」
飄々と言う沖田さんに、言葉が出なくて、思わず口を噤んだ私に、彼は続けた。
「あのまま始末しても構わなかったけど、君は無茶をする子だからね。また怪我でもされたらたまらないから、」
「あ・・、う、」
それは、私の口を塞いだいい訳をしているのでしょうか、それとも、
言葉が出なくて、幾度か口をパクパクと開閉する。
それを面白そうに見遣って、彼はさらに私を追い詰めるようなことを言う。
「もしかして、腰砕けちゃった?屯所までおぶってあげようか?」
「け、結構です!!」
嬉しそうに、楽しそうに口角を持ち上げて私の真っ赤になっているであろう顔を覗き込んでくる。
「千鶴ちゃん、」
「・・はい、」
素直に沖田さんの顔を見ることが出来なくて、さっさと先を歩き出した私の背に、少しだけ低い声色がかかる。
「さっき僕が言ったこと、本当だから。」
「・・・・え?」
「もし、君が再び僕の目の前でその着物を赤く染めることがあったら、」
「そのときは、誰の手も届かないところに閉じ込めてしまうから。」
「お、きた・・・さん?」
ぞくり、と畏怖の念を抱く。
微笑んだまま、彼は酷く優しい口調で告げる。
「新選組のために何かをしたいっていうのなら、僕のために、囚われてよ。」
「・・なにを、言って・・、」
「・・・これは、警告だから、覚えておいてね。千鶴ちゃん。」
にっこり、と、何の裏も見せないその笑顔で彼は締めくくる。
それから、するりと私の肩から落ちかけた小袖を受け取って、丁寧に畳むと再び包み紙の中へと直した。
「さぁ、帰ろうか。」
この差し出された掌をとれば、もしかしたら囚われてしまうのかもしれない。
でも、
「・・・構いません。」
「え?」
「沖田さんの気が済むのでしたら、それで、構いません。」
「キミ、何を言っているのか分かってる?」
一瞬にして、周りの空気の温度が下がる。
「理解したうえで、それでも私は、新選組のために、役に立つことがあるのなら、前に出ます。」
「・・・そう、」
無感情な声で、小さく彼は呟いて。
それから、呆れたように眉を下げて笑う。
「キミは、本当に困った子だよね。」
でも、キミらしいよね。
そう言って、差し出された掌は、暖かかった。
@あとがき
あ、あんまり甘くはならなかった・・・。
せっかくのアンケート御礼夢だというのに、素直にいちゃいちゃさせられないっていう不甲斐ない奴ですみません。。(;へ;)
なんだかねぇ・・、沖田君って、ついつい歪ませたくなる症候群。むしろいじめっ子な沖田しか思い浮かばないっていう・・はい、ごめんなさい・・。
少し長くなってしまったので前編後編に分けようかとも思ったのですが・・連載とかじゃないので、無理やり一話にまとめてしまいました(^◇^;)読みづらかったら・・分けるので言ってくださいね!!
では、これから頑張ってもう一人の一位:一君のお話を執筆してきます!!
一斉UPしたかったのですが・・一君のお話が難航してて・・お待たせしてしまいそうだったので先に沖田君のお話をUPしちゃいました(*´v`*)一君のお話は連載やシリーズと関わりの無いものですので、少しは甘く出来るといいのですが・・・、頑張ります!!
ではでは、アンケートにご参加くださって本当に有難うございました!!!
沖田くんのセリフに思わず目を閉じそうになった笑です。
お久しぶりですvv
待ってましたよー><
一くんが先か、沖田くんが先かワクワクしながら^^
十分甘かったですよv
沖田くんのセリフにドキュンドキュン心ときめいてましたから~vv
ちょっとえっちぃ沖田くんもサイコーでした^^意地悪さ健在ですねー。
沖田くんの意地悪さの中にある甘さがたまらなく美味しいんですよねっっ!!
ごちそうさまでしたぁ!!
女の子の着物を着せたい気持ちは皆一緒なんですよねーvv
…実は昨年の冬コミ用にと考えていた左之千の話が、そうなんですけど…もうねぇ…って感じで;
来月にはイラスト集やCDもでますし、3月は薄桜鬼祭りですねvv
あちらこちらでいろんな企画が出るのかなーと思うと嬉しくなります。
あと、遅くなりましたが、卒業確定ということで!!おめでとうゴザイマス~~!!!
最後は展示会などで大変そうでしたが、展示会も無事終わられてお疲れさまでしたv
アンケの一くんの話、楽しみにしていますvv
あと、2009年企画の「逢引日和」って、読ませていただけるんですか??
読みたいです~~~vv
今後UPということなので、こちらも楽しみにしてますvvv
…えぇ、わかってましたとも。
左之さんの逆転の確率が低いことは…でもどこかで票をのばしてくれると祈ってたんですけどね(苦笑
ではでは。
いろいろと楽しみにしていますねーーーーーvvv
え、笑さん・・、ご、ごめんなさい。
ここ最近、ごめんなさいとお待たせしましたとお久しぶりしか言ってない気がします。。(;△;)
ちゃんと、ちゃんとメッセージは携帯の方から読ませていただいたのですが・・自宅のパソコンの電源つける時間もないくらい慌しくて・・。
また絵チャとかゆっくりできるようになったらいいなー・・と夢見つつ、3月は我慢の月!と、頑張ります。
4月になったら絵チャとかいっぱい誘ってくださいね!
アンケートの御礼夢が以外にも好評で、喜んだり慌てたりと、ちょっと脳内が忙しかったです//(笑
嬉しいコメント頂けて、もう、光栄です!!(*>□<*)
ちょっとえっちぃお話は沖田くんが一番書きやすいですよね!
左之さん、大人の余裕をどう表現しようか悩むのですが、沖田君は常にやりたい放題、おさわりしほうだ・・・とと、ちょっと言い過ぎました。が、意地悪な甘さって・・ときめきますよね~(//∀//)
冬コミ用に考えていた左之千のお話・・・ドキドキvわくわくv
そ、それは、完成してるんですか?よーみーたーいーでーすv
春はあまり長居できなかったのですが、笑さんは参加なさったのでしょうか・・もしやサークル参加してらっしゃっていたと・・か・・(@△@)
今月は薄桜鬼のグッズがいっぱいですね!!
明日にもいろいろ発売とか!・・・私は・・買いにいけませんけど・・・さすがに卒業式と天秤に掛けたら・・・1日くらい我慢しなくては・・と。
CDはもう聞きました??なんだかドキドキしちゃいますよね!
私は後編の発売日にまとめて届くようにしたので、まだ手元にBOOKも前編もないんです。。寂しい。。。千鶴ちゃんの声がないので、寂しいですが、でもでも、沖田くんとか左之さんの活躍がまた聞けるのが嬉しいですよね~
あ、お祝いのお言葉、有難うございます!!
今も現在進行形であわただしい毎日ですが、4月にはちゃんと就職できているように頑張ります!!
アンケートの一君のお話はもちろんですが、こっそり3位以下の3人組のお話もオマケで書いてたり・・します。平助君も途中まで頑張ってくれたし、なによりも、妙な巡りあわせであの3人組が揃ったので(笑)そちらもアップしますので、是非とも読んでやってくださいね!
コメントのお返事、遅くなってしまって本当に申し訳ありませんでした!!
でも、でもでも、本当に嬉しくて一言一句欠かさず読んでるんですよ!
だーいじょうぶです!次からはもう、以心伝心!?ってぐらいスピーディな返信を・・・・・・・心・・がけます!
あれ、わわわ、忘れるところでした。
「逢引日和」は、送り主に確認したところ全然OKだよーと返事を頂いたので次の更新のときに一緒にアップしますね!
結構送り主の個人的願望が詰まったリクエストを頂いて書いたので、アップ迷ってたんです・・(苦笑)
だ、大丈夫ですか(((´◇`;)))
あ、あの!落ち着いて!
ゆっくりご覧になって行ってくださいね!