「・・はらださん・・」
「・・・・・・・千鶴」
その背を、その声を、気がついたら追い求めていた。
一歩、二歩、踏み出して、それから走り出す。
ふらりと身体が傾いて、あぁ、血が足りないのだと場違いにも冷静に考えてしまう。
そうして受身を取ろうと身を硬くしたところに、あの夜と同じ暖かくて大きな手に支えられる。
「・・あ、ありがとうございます。」
暖かい手はすぐさま背に回されゆっくりと支えながら座るように誘われる。
それに従って再び縁側に腰を落ち着かせて顔を上げれば、原田さんのどこか寂しげな横顔があった。
「・・もう、大丈夫なのか?」
「はい、少し貧血なのは仕方がないけれど、傷自体は痕も残ってませんし、」
そこまで言ったところで、遮るように大きな腕に抱きしめられていた。
「・・・は、原田、さん!?」
「・・・・・・・」
大きくて暖かい腕は私の背をぎゅっと強く抱きしめた。
名を呼んでも返事が帰ってくることはなくて、思わず飛び跳ねた鼓動も次第に落ち着きを取り戻す。
「・・・原田さん、あの、」
「・・悪かった」
「え・・、」
小さく、消えそうな声。
彼の謝罪の意味が分からなくて、でも、意味以上に謝罪をされたことに、ひどく取り乱す。
「どうして、謝るんですか?」
「千鶴・・」
「原田さんに謝っていただくことなんて、何一つ・・ありません!」
半ば叫ぶように私は声を荒げた。
ぐいぐいと彼の胸を押して距離をとり、私はぐっと唇を噛み締めてから顔を上げた。
「・・・・・・」
「・・・千鶴、斉藤あたりから聞いてっかもしんねぇけど、俺は一度もお前の見舞いに行ってねぇ。逃げるように、お前から距離を置いた。」
微かに視線を私から外して、原田さんは苦笑を浮かべる。
「菊池がしでかしたことは組長である俺の責任でもある。」
「自分の責任だから、私に会いたくなかったと・・そうおっしゃるんですか?」
言葉をぶつける私に、彼は首を横に振る。
「確かに、それも理由の一つだ。けどな、」
言葉を選ぶように間をおいて、彼は少し重たいため息を吐き出した。
「・・・逃げたんだ、俺は」
「逃げ・・、だから、それはっ・・」
「お前を目の前で失うことを、恐れた。」
「・・・・え、」
私の叫びにも似た言葉を遮って、彼は落ち着いた声色で告げた。
「千鶴、お前が・・あの夜、血溜まりに倒れたとき・・情けねぇ話だが、全身が凍りつく思いだった。」
「・・・・・」
言葉を失った私に対して、原田さんは悲しげに瞳を細めた。
「傷が塞がるとかそんなの関係ねぇよ。あんなに真っ赤に染まったお前見て、平静でいられるわけがねぇんだ。」
自身の拳を握り締めて、彼は苦しげに言葉を投げた。
「お前に合わす顔がなかった、なんてのは・・・言い訳にすぎねぇ。」
「原田さんの気持ち、知ることが出来て嬉しかったです。でも、私は、貴方に会いたかった・・。」
「・・千鶴」
「目が覚めて、最初に、原田さんの顔を見たかったです。そうして、大丈夫って言いたかった。」
分からないけど、涙が溢れた。
「私は、最後まで見届けることが出来てよかったって・・思ってます。だから・・、原田さんが責任を感じる必要は何一つないんです。」
ぼろぼろと、零れ落ちる雫は頬を伝う。
ひんやりと冷たい感触だけが今の私を繋ぎとめている。
「お願いですから・・離れていかないでください。傍に、居させて欲しい・・」
我侭だ。
それは、私の我侭に過ぎない。
でも、それでも、私は・・貴方に微笑んでもらえないと、元気になれない。
「私の、我侭です、こんなの・・でも、」
俯いた。これ以上彼の顔を見ていることが出来なくて。
でも、ぽんっぽんと暖かくて大きな掌が私の頭を撫でる。
「・・悪かった。」
「それは、どういう意味での謝罪ですか?」
「見舞いに、行ってやれなかったこと。」
「・・そんなの、いりません。」
「俺の組のやつが迷惑かけた。」
「・・迷惑なんて、かけられてません。」
「会いに来るのが遅くなった。」
「・・・今、会いに来てくださったので、もういいです。」
拗ねた子どものように俯いたまま顔を上げようとしない私を見遣って原田さんはどこか柔らかいため息を吐き出す。
「・・千鶴。」
「・・・・」
「辛かっただろうが、あいつの最後から目を離さないでくれて、ありがとよ。」
「・・・・・・」
返事を返せなくて、ただフルフルと首を振った。
「それと、生きててくれて、よかった。」
「・・・原田さん」
思わず顔を上げた私は、そんなに間抜けな顔だったのだろうか。
きょとんと目を丸くした後、ぷっと彼は吹き出した。
「な、なんで笑うんですか?」
「お前、顔、ぐしゃぐしゃだぜ?」
「なっ・・・!」
途端に顔を着物の裾で拭く。
涙を拭かずに歯を食いしばってたから、きっとその痕でみっともないことになっているのだろう。
「擦んな、真っ赤になっちまう。」
そう言って、私の顎を掴んで顔を上げさせてから優しく持っていた布で拭いてくれる。
先ほどとは違う、恥ずかしさで顔を上げられずにいると、彼はそっと私の耳元に顔を寄せた。
「もう、どこにもいかねぇから。」
「え?」
「俺が離れちまって、お前がまた一人で泣いたんじゃ、意味がねぇからな。」
そう言って、ひどく優しく微笑む彼に、私は勢いよく頷き返した。
@あとがき
お待たせいたしました!!
最後の一話だったのに、長らく放置してしまって・・ごめんなさい(><)
これで、ようやく囮捜査官シリーズ完結です!長かったよー・・・長かった・・。
そして、予期せずどんどんシリアスになっていって正直、焦りました。シリアスは好物ですが、書き出すと止まらないので控えていたのに・・。
次シリーズからはいつものわいわいした雰囲気のお話書きたいので、また阿呆なお話、お付き合いよろしくお願いいたしますー(*^v^*)
あ・・完結したあとでアレですが、完全に原田落ちです。すみません。逆ハーがモットーなので特定の人で落ちは書かないように気をつけていたのですがあの展開だと原田で落ちてもらわないとまとまらなかったんです・・。逆ハーって言っても、だれか一人は特別扱いしないと締められないんです(ーー;)難しいなぁ、お話って・・。
お邪魔してます 囮調査官シリーズお疲れ様でした!
また例によって読み返しまくってました(笑)
親に怒られました(苦笑)
このシリーズ好きだから完結ってのは少し口惜しいですね
ところで最近psp買いました
理由と言うか目的は当然薄桜鬼のpsp版が出るそうなんでつい・・・って感じです
でももう少し後の発売なので今はモン○ンパラダイスです
長々すいません
また新作楽しみにしています
囮捜査官シリーズ、お付き合いありがとうございました!
いやいや、今まで書いたものの中でダントツのシリアスなお話だったので不安もいっぱいありましたが、完結が口惜しいだなんて言って頂けて光栄です!!ありがとうございます(*^v^*)でも、親御さんに怒られない程度にゆっくりで、大丈夫ですよ?削除とかしないので、ね、うちの小説読んで怒られてしまうだなんて、切ない・・。なんか、あの、ごめんなさい。
あ、PSP購入なさったんですねー。
いいなーいいなー。私持ってないのですよ。薄桜鬼と一緒に購入予定です。なので、緋色PSPソフトは購入後ずっと放置プレイです(汗)
でも、やっぱりPSP買ったらモンハンは!って気持ち分かります。GWはガッツリモンスター倒しちゃってください!!
またいつでも遊びにいらしてくださいね!GW最終日も更新出来そうなので頑張ります~