「そんな、恋仲になんて「なるわけがないって?」
まっすぐぶつけられた言葉に、戸惑い、すぐさま反論を返せば投げ捨てるような口調で私の言葉を遮る。
「じゃあ、この前何があったか、僕の目を見て話せるわけ?」
「この前って・・」
「君と、平助君が僕らに隠れて逢引してたときのこと」
「・・・っ、あ・・・いびき、なんかじゃ、ないです」
さっと、頭の中にあの日の出来事が浮かんで慌てて掻き消した。
顔に熱が集まっていって、自分ではどうしようもないくらい唇が震えた。
「目を逸らしながらの発言は説得力がないからやめたほうがいいよ」
「っ・・、では、はっきり言わせてもらいます!私と平助君は別に、やましいことなど何もしていません!」
なんで、こんなにも責めるように冷たく鋭い眼差しを向けられなければいけないのだろうか。
そう考えると悲しくて、同時に無性に腹が立った。
平助君も私も、不安定で、今の状況に困惑して、それでも・・・、
唇を噛み締めて俯く私の頭上で、微かに沖田さんが微笑を漏らす。
「・・沖田さん?」
「あ、ああ、ごめん。そんなにムキになることはないんだ。別に責めているわけじゃないんだから」
「え・・・?」
「少し、苛めすぎちゃった?誤解しないで欲しいんだけど、僕は君で遊ぶのは好きだけど本気で困らせたり苦しめたいってわけじゃない」
カラカラと、先ほどの雰囲気はどこにいってしまったのか・・
沖田さんはこらえきれずに、といった風にお腹を押さえて笑い出した。
「・・ねぇ、千鶴ちゃん」
ひとしきり笑った後、彼はゆっくりと私の名を呼んだ。
「・・・はい」
「君は父親を探すことと、平助君と仲直りすることだけを考えて江戸に行く。そうだよね?」
「・・・も、もちろんです!」
「うん、だったらいいんだ。僕は君を信じることにする」
「沖田さん・・」
もう、場違いなのは分かっていても胸にじんと来てしまう。
沖田さんから信じるなんて言葉が出てくるなんて、と少しおかしくて、でも少しホッとする。
「ただ、もしものときは・・許さないからね」
「・・・・・え?」
「例えば、そうだなぁ・・手を繋いで帰ってきたりとか、なんか二人の距離が縮まって、とか・・僕が見て苛々するから、そういうことになってたら、許さないよ」
にっこりと、満面の笑みで彼は締めくくる。
背筋に寒気が走り、私は表情を引きつらせた。
「も、もし・・前より仲が良くなっていると・・沖田さんが判断したら、どうなるのでしょう・・」
恐る恐る、聞いてみた。
答えは聞きたくないけど、でも、聞いておかなければならない。
「え、そうだなぁ・・、心配しなくても大丈夫だよ。殺すよ、なんて言わないから」
少しの思案のあと、彼は微笑む。
「ただ・・・、分かってるよね」
何を、とは聞かなかった。
・・聞け、なかった・・。
にっこりと笑っている。沖田さんが、満面とはいかなくても普通に、普通に微笑んで「分かってるよね」って。
「・・・は、はい」
はい、という以外の返答は許されるはずがなかった。
「千鶴ー・・・!!」
「あ、はーい!今行きます」
翌日、朝食を終えてから土方さんと話をしていた平助君がバタバタと走りながら広間にまで届くような大声で私の名を呼んだ。
「では、行って来ます」
大広間で朝食後、くつろいでいる永倉さんと沖田さん、斉藤さんに向かって挨拶をする。
原田さんの隊は昼の巡察なので先に挨拶を済ませた。
その際に、少し私を心配するように困ったように微笑んでいて、うまく笑顔を返せていたか、それだけが心残りだった。
「おう、頑張ってこいよ」
「はい、平助君のお手伝いも、父様探しも、頑張ります!」
「こちらでも引き続き、綱道さんに関して捜索は続ける。有力な情報が掴めずとも気を落とす必要はない」
「お気遣いありがとうございます」
永倉さんと斉藤さんの言葉に精一杯、頭を下げて返事を返す。
沖田さんは、ただ深い笑みを浮かべていってらっしゃい、とそれだけ口にした。
その深い笑みを背に受けて、ちょっと息を詰めるも私は気を取り直して元気に平助君のもとまで走った。
@あとがき
とりあえず、次回からはまた平助オンリーになっていくかと・・思われます!
それにしても・・総司は書いてて楽しいなぁ・・、動かしやすい。どんな無茶させても、沖田だからってまとめられるし、左之さんメインのお話でも平助メインのお話でも登場させやすいし、あー楽しい!(笑)
それで、話は変わりますが・・謝らねばならぬことが、あります。
すみません・・1月に行ったアンケートで沖田と同率一位の斉藤の御礼夢、すっかり忘れておりました・・執筆途中で放置してありました・・(--;)ただいま、急いで書き上げている最中ですので今週中ぐらいには更新できると思います!また期間を設けてフリー配布させていただきますので、もうしばらくお待ちくださいませ!