「・・・・・・。」
ここで、悲鳴を上げなかった自分を誉めてあげたい、と思う。
背中に回された腕と、陽だまりのような布団の心地よさに流されそうになって、急いで頭を振る。
流されていい状況じゃない。
自分を抱きしめるようにして腕を伸ばし、しかしそれは本人の意図したことでなく、明らかに寝ぼけている様子の彼に、それでもどきどきと胸を激しく打つ鼓動は静まる兆しさえ見せない。
「へ、平助君・・起きて、朝だよ。」
なるべく平静を装って彼に声をかける。
しかし、少し身をよじっただけで、反対に自分を拘束する腕の力は強まってしまう。
そもそも、起こしに行くというのは前日に伝えてあったはずだ。
それでもやはり、酒を煽った体はその眠りを深いところまで落としてしまったのだろう。
完全に熟睡、そして寝ぼけている彼に、諦めにも似たため息が漏れる。
「・・どうしよう、」
予告どおり、順番に起こして回ろうと思って、一番近かった平助君の部屋まで来たのは少し前。
襖越しに声をかけ、反応を得られず、だから再度声をかけた。
土方さんは、部屋に入るなと言うけれど、少しだけ襖を開けて少しだけ傍に行って声をかけた方が覚醒に近づくのでは、と躊躇もあったけれど当初の目的を果たすためにゆっくりと戸を引いた。
そうして、少しだけ距離をとって肩に手をかけて揺さぶってみたけれど、やはり起きない。
「平助君」と声をかければ、むにゃむにゃ、と夢の中からの返事が返ってくる。
ふぅ、とため息を漏らして、他の二人を起こしてもう一度来ようと折っていた膝を伸ばし立ち上がろうとしたときに、突然手を引かれた。
沖田さんに言わせれば、きっと、ありえないくらいありきたりな展開だよね。と笑われるだろう展開に陥った。
そんな、ありきたりだと言われてもきっと反論できないくらい、寝ぼけた人物に布団の中に引っ張り込まれた。
「平助君・・平助君。」
少しだけでも拘束の手を緩めてくれれば抜け出せるのに。
自分の顔のすぐ傍に、気持ちよさそうに眠る平助君の寝顔がある。
意識しないように、なるべくそちらを見ないように。
でも、見ないようにして首をひねってみても、今度は寝相のせいで少し乱れた彼の着物の合わせ目が視界に飛び込んでくる。
どちらに目をやっても、顔中に熱がこもってしまう。
「へい、すけくん・・」
なぜだか無性に泣きたくなった。
なんとなく、恥ずかしいのとか、苦しいのとか、胸が熱いのとか、いろいろなものが一気に押し寄せてきた気がした。
「ん・・・、」
「平助君!起きて!」
そこで、ようやく彼に覚醒の兆しが見える。ここぞとばかりに必死に声をかける。
「んー・・・あれ、ちづる・・?」
「うん、私だよ。お、起きてくれた?」
「んー・・・・・、起きてる、起きてる。」
目が少しだけ開かれて、でもぼんやりしたまま彼は再びまぶたを閉じた。
「だめ、寝ちゃだめだよ。平助君。起きないと、えっと、ほら!土方さんに怒られちゃうよ!」
「えー・・・、んー・・・、土方さんが、なに?」
「寝坊して昼の巡察に遅刻したら、今度こそ外出禁止令が出ちゃうかも!!」
「うわー、それは勘弁だな・・」
なんとなく、会話が成立し始めているけれど、彼の頭はきっと起きていない。
だって、私を抱きしめる左手はそのままで、右手で目をこすっている姿は、どう考えても今の状況を理解していない。
「ね、だから起きよう?私、原田さんや永倉さんにも声をかけなくちゃいけないの。」
「あー・・・そっか、今日からしばらく千鶴が起こしに来てくれることになったんだっけ・・」
「うん、もうすぐ朝ごはんだからね、」
「あー・・・うん。腹、減ったかも・・・」
気を抜いたら再び深い眠りについてしまいそうな平助君に必死に言葉を投げつける。
あまりに近い距離でいるために彼の体を揺すって起こすことは適わない。
起こすのは、今しかない。
「へ、平助君・・、そろそろ、その・・離してくれるとありがたいんだけど・・」
「なに、が・・?」
ぼんやりとした目がやっと焦点に合ってきた。
そうして、何度か瞳をパチパチと開いて閉じてを繰り返して、その視線はゆっくりと至近距離の私へと注がれた。
「・・・え、な、千鶴!?」
「うん。おはよう、平助君。」
「な、なんで、、え・・?」
完全に目を覚ました彼は驚きに声を荒げる。
「起こしに来たら、その・・引っ張り込まれて・・」
「うっわ!ごめん!!」
そうして、彼は勢いよく腕を離してくれた。
けれど、私が視線を合わせずそっと離れようとすると、先ほどまで私を抱きしめて離さなかった腕が再び私の体を拘束するように回された。
「えっと、平助・・くん?」
「あのさ、その、ごめん、なんつーか、もうちょっとだけ・・さ、このままでいてくんない?」
@あとがき
なにか、ハロウィン的なものがやりたい!!
とは、思うのですが結局、いつもどおりの更新になってしまいました(´□`;)
本当は、ハロウィンだし!と時間かけて絵をもそもそ描いていたのですが、やっぱりスキャナ君は不機嫌のままで、結局、イベントらしいイベントが出来ず・・。さびしいなぁ・・・。
クリスマスとかお正月には何か企画絵とかお話とか書けたらいいな、とは思ってます。
さてさて、とりあえず、モーニングコール一日目がはじまりましたです!!
一番手はもちろん平助君に頑張っていただきましょう(>▽<)ノ
うちの平ちゃんは純情乙女な感じなのです。
思春期のいろんな葛藤とかもやもやとしたものが、いっぱいいっぱいあるけれど、大切な女の子のために必死に押し殺して、でも、やっぱり、たまに我慢できずにぎゅーってしたくなって、っていう、、ちょっと恥ずかしいけれど可愛い感じの男の子なイメージ。平助ルートをプレイしながらきゅんきゅんしてて、とにかく彼は千鶴とセットで愛でたくてたまりません!!
ただね、なんていうか、うちの平助は、淡い恋心を持ちながらもいいところを左之さんに持って行かれる少し可愛そうな役回りなのです(苦笑)
逆ハーって、実は失恋続出でシビアですよね。。。ううん、なんか、全員それぞれでオチつけてあげたいなぁ・・。
竜樹さんは平助が一番好きなのですね(^w^)ノシ
でしたら、是非とも「逢引き日和」シリーズを読んでいただきたいです~
あ、まだ完結はしていないのですけど……
珍しく逆ハーじゃなくて、平助オンリーで執筆しておりますので、楽しんで頂けたら嬉しいなぁ、と思います!