「夢ってんなら、堪能しなくちゃもったいねぇよな!」
「え?・・・・・あの?」
「まぁ、んなとこいないで、こっちこっち、」
「あの、永倉さん。話を聞いてください!」
「それにしても、起こしてもらう、なんて夫婦みてぇだよな、左之たちにはこっぱずかしくて言えねぇな。」
まるでこちらの声を聞いてくれず、しかも離れていた私の腕を引っ張って、自分が寝転んでいた布団に隙間を作ってポンポンと叩く。
ここに、入れって、そういうことですか?
「永倉さん!」
「うぉ!?なんだ、」
バンっとその隙間に手を突いて、必死に声を張り上げれば、ようやく彼は言葉を止めて、こちらに視線を合わせてくれた。
「夢じゃないです。朝なんです。起きてください!!」
「・・・・・・・。」
「永倉さん?」
「なんか、やっぱ照れるよなぁ、正夢になったりしねぇかな。」
「・・・・・・。」
だめかも、しれません。
きっと目は覚めているし、寝ぼけているわけでも、ないのでしょう。
彼は、この状況があまりにも非日常なため、夢だと思い込んでしまっているようで、頭の片隅で「新八には俺らから伝えておくよ」なんて言っていた二人の姿を思い浮かべる。
一番伝えておいて欲しい人に、伝わっていなかった、らしい。
「ま、あれだ。夢の中でくらいなら、いいよな。」
「永倉、さん・・?」
どうやって、彼にちゃんと目を覚ましてもらおうか、少しばかり肩を落としていたら、頭上から小さく呟かれた言葉が落ちてくる。それは、普段の彼には到底似合わぬほどの、ひどく落ち込んだような声色で、私は思わず顔いっぱいに不安の色を宿して面を上げた。
「っ・・・え?」
同時に、どさりと、室内に何かが倒れこむ音が響いて、それが自分の背が床に崩れ落ちた音だと気づいたのは少し後。
「夢なら・・・、許される、かも、しれねぇよな。」
先ほどの言葉と同じ、ひどく切なく、悲しそうな声色は彼に似合わなくて、どうしようもなく、胸の中が痛んでやまない。自分の置かれた状況が理解できないほど私の思考は停止したわけじゃなくて、それでも、逃げずに流されてしまいそうになる。
「ながくら、さん・・、」
「・・・・・・。」
顔の左右に置かれた腕のせいで視界が彼で埋め尽くされる。
いつもは頼もしく思える腕が、少し、怖かった。
「・・千鶴、」
「・・ッ、」
初めて呼び捨てで呼ばれて、少なからず色をもった声色に、息が詰まりそうになる。
視線を逸らすことが出来なくて、次第に身体が緊張で強張っていく。
彼は私の右脇についていた手を浮かしてそっと私の頬に触れる。
「・・・ッ、」
「・・・・やっぱ、無理だ。」
「え・・?」
「たとえ夢でも、んな顔の女を押し倒すって俺らしくねぇよな。悪かった。」
彼はうん、とどこか自分に言い聞かせるようにして頷く。
そうして、サッと私の上から退いて押し倒して悪かった、と律儀にも謝罪の言葉を述べる。
「あの、永倉さん。」
「ん?あ、もういいんだ。夢の中くらいならいいかなって、本気で思ったんだけどよ、やっぱ、あれだよな。
男は直球勝負だよな。夢の中だろうと起きてるときだろうと、かっこわるい真似はできねぇしさ。」
彼は、いつも見せてくれる心に元気をくれるほどの大きな笑顔を作って私の頭をひと撫でする。
それから私を優しく起き上がらせてから再び自分は布団の上に寝転がった。
「さーて、ちゃんと目ぇ覚まして、飯食いにいかねぇとな。」
ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、気になる単語が聞こえて、私の身体は強張って、そうしてから、遅れて疑問の声が漏れ出た。
「・・・え?」
「ん、どした?」
「えーと、永倉さん。起きて、らっしゃるんですよね?」
「は?」
彼はなぜか目を丸くしている。私も、彼がどうして驚いた様子なのか分からなくて、
「えっと、もしかして、まだ夢の中だと思ってらっしゃいますか?」
「・・・ちょ、ちょっと待ってくれ。え・・?」
「・・えと、繰り返しますが、おはようございます。朝ですよ、起こしに伺いました。」
「・・・朝?」
「はい。」
「これって、夢じゃない、とか?」
「はい。朝餉の時間、過ぎてらっしゃいますし、早く行かないと平助君にたべられちゃいますよ?」
「・・・・・・・・・。」
すごく、ゆっくりと彼は表情を硬くしていく。
そのまま真っ青といえるくらいに青ざめて、思いきり寝所から飛び起きる。
「ち、ち、千鶴ちゃん・・本物、か?」
「えと、はい。」
「な、なんで千鶴ちゃんが俺を起こしに来てるんだ?」
少し前に似たような会話をした気がしなくもないが、彼は混乱しているのか冷や汗をかいている。
やはり、平助君たちから事情を聞いていなかったらしく、土方さんから仕事を承ったところから順序だてて説明すれば、真っ青だった顔が真っ赤になって、文字通り、飛び起きて、飛び出した。
「え?な、永倉さん・・・!?」
部屋から走り去っていく彼の背を、あまりの急展開に追いつけずぼんやりと目で追っていた私は、彼の居なくなった室内に目をやった。皺だらけになった布団が視界に映って、それを丁寧に伸ばして綺麗に整えて押入れへと押し込んだ。
それから、どういうわけか思考が完全に停止してしまったかのような、何も考えられない空っぽの頭を背と共に壁に預ける。
「・・・・・・・・。」
夢なら、許されるかもしれない。彼はそう言って切なそうに瞳を細めた。
あの、いつも元気で明るい永倉さんの、あんな表情を見たのは初めてで、少しだけ、胸がトクンと鳴った。
「ご飯、食べに行かなくていいの?」
「・・・沖田さん・・?」
開け放ったままの襖に背を寄りかからせるようにして立つ彼を見やって、相変わらず気配を立って近づく彼に、このときばかりは驚いた声も表情も返すことが出来なかった。
彼はすっと目を細めて室内にゆっくりと足を踏み入れ、座り込んだままの私に合わせるようにしてしゃがみこんだ。
「君って、、ある意味で罪深いよね。」
「え・・?」
意地悪く口元を上げて、
「新八さんも、どうせ夢だって思い込むんなら最後までやっちゃえばいいのに、ね。」
「お、きた、さん・・?」
すごく物騒な科白を吐いて、それから私の頬に手を添えた。
「ねぇ、千鶴ちゃん。」
「は、い・・」
「今度は僕のことも起こしに来てね。」
「え・・?」
にっこり、笑顔を作る。でも、それは、決して真っ白で気持ちのいいそれではなくて、背筋にゾクリと悪寒を走らせるような、そんな笑顔。
「僕は新八さんや平助君みたいに、自分の気持ちを押し殺すって、嫌いなんだ。」
「・・・・・。」
「だから、覚悟、しててね。」
息が、詰まる。
笑顔のまま私の頭を優しく撫でた後、彼はゆっくりとした動作で部屋から出て行った。
覚悟、って、なに?
気持ちを押し殺すって、なに?
私は、もうすでに、危険な渦の中に身を落としていることに、ようやく気づき始めた。
@あとがき
こんにちわ!!
沖田君、とうとう始動しまっす!!(笑)
それにしても、こう毎日男に迫られるって、ベタな少女漫画なノリで申し訳ないです;
千鶴ちゃんがモテモテなのは当然なのですが、(千鶴ちゃんの可愛さは世界一ですから。ちなみに珠紀の可愛らしさは宇宙一です。)逆ハーって結局誰のオチにしていいか、すごく悩みます。
一応、左之さんと総司贔屓だったりするのですが、大穴は一君あたりかなぁ、と考えております。
モーニングコール二日目もそろそろ終わります。【数日後】では少し、ほんとうに少しだけ、過度なセクハラがあるやも、ですので、自己責任での閲覧でよろしくお願いいたします。
今日から妹が沖縄に修学旅行に旅立って行きました!!
妹とは年が離れているのですが、妙に私に似ちゃって・・(ーー;)小生意気に育っちゃって参ってます。この5日間、夕飯作りも自分の分だけでいいし、のほほんと過ごします~。
きゃーーーvv沖田くん登場ですねっっ!!待ってましたっ。聞こえてきた沖田くん登場の足音は聞き間違いじゃなかった!!!
てか、本当に神出鬼没ですよねー…。突然現れるのは心臓に悪いけれど、今回の千鶴ちゃんにはそれほど驚くことではなかったようでしたね。その前の新八さんの言葉がありましたし…。
次も楽しみにしてますっっ
お邪魔しましたvvv
本日もお会いできて嬉しいです!!
私ばかりがこんなに毎日幸せを頂いてしまってよいのでしょうか///
えっと、新八さんにはかわいそうかなとも思ったのですが、左之さんとは違う意味で男らしいイメージの彼には無理強いとかして欲しくない!!なーんて私の希望でこうなってしまいました(^-^;)ちなみに、大丈夫です!
男、永倉新八!!こんなことで傷ついたりしません!!
次こそは!別の意味で男を見せます!!(笑)
っと、沖田くんですよ、はい、お待たせいたしました(^□^)ノ
彼は神出鬼没以外の登場のさせ方ができない、とばかりに、毎回こんなパターンで申し訳ない;内容は、ちょっと流血入るかもしれませんが、よろしくお付き合いお願いいたします!!(>□<)