「・・組長、俺、覚悟は出来てます。」
それは、言い訳など不要だと自分が一番良く分かっている、という精一杯の誠意の言葉に聞こえた。
じわじわと下腹部に伝う赤を、どこか遠いもののように感じながら、私は原田さんの背を通り越して、彼を見る。
今、思い出すことは、さきほどの取り乱したような別人の彼ではなくて、巡察で幾度か言葉を交わしてやさしい仕草で気遣ってくれた彼の姿。
「俺は、この一連の事件の下手人に間違いはありません。・・組長、あなたに裁かれるのなら、俺は、逃げるつもりはありません。」
「・・・そうか。」
原田さんが今、どんな表情をしているのか、分からない。
けれど、とっさに私は彼の名を呼んでいた。
「・・原田さん!」
ピクリと、槍を持つ手に微かな動きが見られる。
「・・千鶴、お前は最後まで見届けるって、言ったよな。」
「・・はい。」
「本当なら、女にこんな場面は見せるわけにはいかねぇ。だけどな、お前は俺たちの仲間だって思ってるから・・」
「はい、私にも・・、負わせてください。」
原田さんの言葉を遮る。
しっかりとした私の口調を、彼は振り向かず受け取った。
「・・・千鶴、・・そうか・・、彼女は雪村君だったんですか・・。」
「・・あぁ。」
死にゆく彼に、隠す必要はない、と原田さんは静かに肯定の返事を返した。
「組長、雪村君に、すまなかったと、伝えてくれませんか。」
「すぐ目の前にいるだろ。自分の口で伝えろ」
「・・・・すみません、俺には、彼女の目を見て謝る勇気が、ないみたいです・・。」
乾いたような苦笑に、胸が締め付けられる。
あ・・、と喉の奥から声を出そうとして、でも、なんとか押しとどめた。
「左之、」
そこで、私の背を支える永倉さんが原田さんを急かすように呼ぶ。
「あぁ、分かってる。」
原田さんも、静かに答える。
こんな些細なやり取りが、辛くて・・・、
仲間だったはずの人の最後を、悲しむ時間すら、持ち得ない。
「・・今まで、ありがとうございました・・、組長。」
「あぁ、」
次の瞬間、赤が舞った。
振り上げられた槍は、確実に彼の心臓を突き、彼は微かに声を漏らして、その場に崩れ落ちた。
「・・・斉藤、あらましは俺が土方さんに説明する。」
「あぁ、分かった。」
原田さんは、崩れ落ちた彼を見ようとはしなかった。
すぐに背を向けて、私の元へ駆け寄り、頭を撫でてくれる。
「・・待たせたな。」
「・・原田、さん。」
なんて声をかければいいんだろう。
仲間を斬る、それは、きっと初めてのことじゃないと思う。
それでも、慣れることなんてない。慣れた様に見えて、みんな・・心のどこかに背負っていくんだと思う。
だから、
「帰りましょう、皆で・・。」
血に濡れたその手を、彼に差し出す。
それを、くしゃりと泣きそうな顔をした彼の、大きな掌に包まれる。
「あぁ・・・・帰るか。」
@あとがき
お疲れ様でした!!無事に、完結です(*^◇^*)ノ
お付き合いくださった皆様、本当に有難うございました!!!
いやー・・長かった。本当は50話ぐらいの長編をよく書いているので連載自体は長く感じなかったのですが、間にお休み期間(工房に篭る期間)があったため、なんとなくスランプで、余計に長く感じたのかなーって思います。
っていうか、今でも少しスランプなんです(;へ;)
1ヶ月ぐらいお話書かなかったので、なんといいましょうか・・勘が戻らないっていうのでしょうか・・。
ま、まぁ、それはともかく、次回からは後日談の連載をスタートです!!
連載って言っても・・、モーニングコールみたいに長くならないように気をつけます・・。だって、後日談ってオマケなお話なのに、あんなに長くなってしまって(ーー;)今回はあっさり・・・、済まないかもしれないですが・・。うーん、えーっと、もやもやっとしたものがスッキリするお話になるように頑張ります!
「私にも負わせてください」なんて普通言えませんて><千鶴ちゃんだから、左之さんにだから言える言葉でしょうし…。
…左之さんの心情的には切ない部分ですが、そういった部分を千鶴が目にすることで、お互いがもっと近づけたのかな…。
左之さんだけじゃなくて、新撰組にも…。
このあとの後日談(囮捜査のですよ…ね?)がとてつもなく楽しみです^^
もっともっとみんなと近付いてってほしいなvv
次回作も楽しみにしてますし、お正月ssも楽しみに待ってまーすvv
お付き合い、本当に有難うございました!!
いろいろと、左之さんの心情とか消化不良なところは後日談に続いていくので、是非ともそちらもよろしくお願いします!!
あ、後日談はもちろん囮捜査のですよ!!
他の短編の後日談をフライングで更新するのもアリですか?
あぁ、アリですか。では、男たちの下世話な話!後日談の後日談でも!!(笑)いやいや、ないです。すみません。