あの夜、粛清を終え屯所に戻ろうとした矢先、千鶴は新八の腕に支えられたまま気を失った。
慌しく、血の気のない千鶴をおぶる新八を急かし、夜の街を走った。
屯所では医者を待機させていた平助に遅いと怒鳴られ、すぐさま医者に千鶴の身を預けた。
幸いにも傷はそれほど酷くもなかったが、出血量が多く、しばらくは目を覚まさないかもしれないと言われて、一瞬、血の気が引いた想いだった。
あの夜から三日、千鶴はまだ、目を覚まさない。
「・・・千鶴、起きてくれよー。」
「平助君、そんなに揺すって傷口が開いたらどうするのさ。」
「だぁってさー・・・目を覚ましてくんねぇと安心できねぇっていうか、なんか落ち着かねぇんだよ。」
雪村の枕元、平助と総司は左右に陣取り彼女の顔を覗き込む。
しかし、目を覚ます兆しはない。
「確かに、ここ数日の巡察中はぼけーっとした顔してやがったよな。」
「な、別にぼけーっとなんてしてないし!新八っつぁんだって毎朝千鶴が起きてないか山崎君に聞きに行ってるくせに!」
「なんで平助がんなこと知ってやがんだ!」
騒ぎ出す二人を呆れたように見遣って、総司はスッと雪村の傍より離れ俺の横に腰を下ろす。
「斉藤君、」
「・・なんだ。」
「僕さ、少し意外だったんだよね。」
「・・なんのことだ?」
「君が千鶴ちゃんのお見舞いに来るなんてさ。」
口元に含んだような笑みを浮かべて総司はこちらを挑発するような口調で言う。
「・・見舞い、ではない。雪村が囮となって動く間の監視と補佐は俺が任されていた。」
「だから、その囮としての仕事中に怪我を追った彼女の安否の確認も仕事の内って、そういうこと?」
「ああ。」
「・・・・ふぅん、」
酷くつまらなそうに眉をひそめる総司に構うことなく、奴が退いて空いた隙間に移動する。
そうして、少しづつ回復してあの夜よりは大分血色のよくなった彼女の顔を確認して、呼吸にも近い微かなため息を吐き出した。
「一君!千鶴はいつになったら目を覚ますんだよ!」
「山崎あたりから聞いてんだろ!?」
どうやら、口喧嘩は一段落したらしい。
矛先がこちらに向いている。
「・・・もう目を覚ましてもおかしくないと言われた。」
「え、ってことはさ・・今日にも目を覚ますってこと?」
「よっしゃ!!平助、千鶴ちゃんに何か見舞いの品とか買って来ようぜ!」
「あ、だったらさ、千鶴が食べたいって前に言ってた甘味屋の団子とかいーんじゃねぇ?」
俺の返答を受けて、平助は嬉しそうに瞳を輝かせた。
続いて新八が立ち上がって騒ぎ出し、平助を連れ立ってバタバタと部屋から去っていく。
その後姿を見遣って、それから開け放ったままの障子を静かに閉めた。
「これ以上、お見舞いの品増やしたら彼女の寝る場所なくなっちゃうんじゃない?」
総司は部屋の中を一瞥してから呆れたように言う。
彼女が倒れた次の日から、平助と新八は揃って毎日見舞いと称して、団子だの金平糖だのと甘味を買ってきては彼女の枕元に置く。
一度、「それじゃぁ死んだ人への手向けみたいじゃない?」と総司が茶化したが、気にした様子もなく「千鶴が起きたら一緒に食べるんだからいーんだよ!」と言い返していた。
「そう思うのなら、少し片付けていけ。」
「え、でも僕のお見舞いは腐るものじゃないし。」
「・・そういう問題じゃない。」
平助たちに限らず、近藤さんや井上さんからの見舞いの品も積まれている。
そして、散々茶化している総司に至っては元気になったら着てもらう、と女物の小袖や小道具を買い揃える始末。
「まぁ、でもさ・・起きたら驚くだろうけど彼女なら喜んで受け取ってくれるんじゃない?」
「・・そうだろうな。」
彼女が床に伏してから、屯所は静かになった。
もともと、男所帯で、ましてや新選組の屯所であるこの屋敷は昼の巡察に加えて夜でも人の起きている気配がある。
しかし、彼女が居ると居ないとでは大きく違った。
騒がしさは前とさほど変わりはしない。
しかし、どこか静かになった、と感じる。
屯所の前を掃除している彼女に声をかければ笑顔で答えてくれた。
食事時も進んで世話を焼き、繕い物など自分から引き受けに回っていた。
雑用などと軽んじず、彼女は精一杯自分の仕事を探して走り回って、結果、それが新選組の屯所の色を変えた。
「・・・千鶴ちゃんが起きてないと落ち着かないって言う平助君の言葉、分かる気がするんだよねぇ・・。」
小さく呟かれた総司の言葉に、思わず頷いてしまった。
@あとがき
目を覚まさない千鶴ちゃんに群がる新選組幹部の図。
もっと悪戯しちゃうぞ!ってノリでもいーかなぁ、なんて不順なこともチラっと頭の中で過ぎったのですが・・いやいや、あんなシリアスのあとにそれはないだろう、と思い直してこうなりました。
みんな心配で心配でたまらないんだよ!ってことでひとつ、よろしくお願いいたします!(//v//)
それと、挨拶回りとか拍手のお返事滞納してしまって申し訳ありません。
更新するだけで精一杯と申しましょうか・・(><)
3月まで不安定で・・、時間的余裕がなくて、卒業とか危うくて、就職とかいろいろ、もう・・鬱になってしまいそうなほど、いろいろ精神的にいっぱいいっぱいなんです・・(;△;)
春からは大分落ち着くと思いますので、大目に見てやってくださいませ!!
それとそれと、アンケートの投票がひっくり返っててビックリしました!!
4位だった斉藤さんが1位に!?
あのあの、順位が変わるほどの連続投票はご遠慮くださいね。
投票してくださるのはすっごく嬉しいのですが、せめて1日2票くらいに・・。
僅差だったら2人分書きますから、あの、落ち着きましょう!!!
囮捜査官完結おめでとうございます!
コメディー系も楽しいですがシリアスもドキドキして楽しいですw
なんだかんだ言って起きない千鶴ちゃんを心配してる斎藤さんとか総司とかかわいくてたまらないですねww
平助君はもう純情な男の子ですねー●´∀`●
可愛くて鼻血出ちゃいそうですw
アンケートで一気に斎藤さんが一位になっていてかなりビックリしました!
私的には嬉しいのですが←
卒業シーズンで忙しいでしょうが頑張ってください!
また遊びにいらしてくださったんですね!!ありがとうございますv
無事に囮捜査シリーズ完結いたしました!!
お付き合い有難うございました(//v//)
シリアス風味からのほほんに戻れるように頑張りますねv
なんだかんだで一君と総司の会話は書いていて楽しいので絡ませたくなっちゃうんですよねー。千鶴ちゃんのことで一君をからかう総司の図、がツボらしいのです(笑
平助君は、いつだってピュアボーイで居て欲しいので、可愛さが10%増量中なんですよ!応援してあげてくださいませv
アンケートの締め切りを決めていないのですが、割と僅差なので、どうしたものかと・・。月さんは一君が好きなんですよね!うぅーん・・どうなるか結果が楽しみですv
応援メッセージ本当に有難うございました!!
はじめまして、のメッセージを下さった方がまた来ちゃいました!って再び会いにきてくれる瞬間ってすごく幸せになりますー(*^◇^*)元気いっぱい頂きました!!また是非とも遊びにいらしてくださいネ!!
こんなにも早く後日談が読めるなんて嬉しすぎですv
昨日お邪魔したときも読ませていただいたんですけど(ちょっと用事があって書き込みできなかったんですが;)、意外にシリアス?と。
賑やかなイメージを勝手に想像していたんですけど…確かに、あのシリアスの話で急にぎゃいぎゃい賑やかな話って言うのは無理ですよね^^
あの怪我のあと目を覚まさない千鶴ちゃんを心配するみんなの気持ちがわかりますね。
あの血の量ですから、土方さんも相当驚いたでしょうし。
いつもいるところに、いつもある姿がないのって何かしらおかしく感じてしまうんでしょね。
それだけ千鶴ちゃんが馴染んでいたってことでしょうし…。
屯所内をパタパタ歩く姿が早くみたいですね。
…私的には、左之さんがいないのがどうしても気になりますが…;
次の後日談2で出てきてくれるのか…
upされてるんですが、まだ読んでいないので…では2の方に行ってきますー><
こんなにも早く後日談書いてしまいましたー!!
いやいや、本当は、別のお話を間に挟もうかなーって思ってはいたのですが、もう、なんていうか勢いです。勢いなくなるとピタリと執筆できなくなっちゃうのです(´v`;)
んーと、そうですね、確かにシリアスちっくすぎかなぁとは思いましたが、粛清って新選組の中では、珍しいことじゃなくてもそれに千鶴ちゃんが関わるのは珍しいことだって思うので、少し慎重に書いてたり、します。でも、きっといつもの雰囲気に戻ってくれるので、待っててくださいネv
土方さん取り乱す!!っていうシーンを入れるか入れまいかで、実は悩んだりしたのですが・・長編になってしまう予感がしたので、カットしてしまいました;
っていうか、私も、千鶴ちゃんがパタパタ屯所を歩く姿を書きたいです!!なんか、もう、ヒヨコのように可愛い千鶴ちゃんが書きたくて、いろいろと限界です!!(><)
取り乱して、申し訳ありません。。
ハイ、2で、左之さんは・・・・・・・出て・・・らっしゃいません。すみません。。